はじめに
新しい商品を世に出すとき、広告の枠を買うだけでは話題になりません。記事として取り上げられたり、SNSで誰かが勝手に話したりして、はじめて広まります。その「勝手に話される状態」を設計して作る仕事が、PRと呼ばれるものです。
ベクトルは、このPRを本業にしている会社です。メディアに向けた話題の作り方を組み立て、SNSの縦型動画に乗せ、タクシーの後部座席のタブレットでも流します。子会社が運営する「PR TIMES」は、企業のプレスリリースをまとめて配信する場所で、いまでは社会の設備のように使われています。サプリメントや美容家電を自分で売る事業も抱えています。
広告の枠を買う側ではなく、話題の作り方そのものを売る側の会社です。
この決算で何が起きたか
2026年10月15日に出た、2027年2月期の中間決算です。3月から8月までの半年間をまとめたものになります。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 328億7,700万円 | 297億4,900万円 | +10.5% |
| 営業利益 | 53億100万円 | 37億3,000万円 | +42.1% |
| 経常利益 | 54億2,800万円 | 39億1,000万円 | +38.8% |
| 純利益 | 36億4,400万円 | 17億6,500万円 | +106.4% |
きれいな並びです。ただ、この4行からは、何が倍にしたのかまでは分かりません。
営業利益は15億7,100万円増えた。その8割は、去年の赤字が消えた分です
短信の14ページ目と15ページ目に、事業ごとの利益が並んでいます。この会社は5つに分けて出しています。
| 事業 | 前年同期 | 今回 |
|---|---|---|
| PR・広告 | 21億9,800万円 | 26億5,900万円 |
| プレスリリース配信 | 18億9,200万円 | 17億5,100万円 |
| ダイレクトマーケティング | △1億2,600万円 | 4億9,200万円 |
| HR | △5,900万円 | 2,300万円 |
| 投資 | △1億7,300万円 | 3億7,400万円 |
前年に赤字だった3つは、合わせて3億5,800万円の赤字でした。今回は同じ3つで8億8,900万円の黒字です。差し引き12億4,700万円が増えています。
営業利益そのものは15億7,100万円の増加です。そのうち12億4,700万円が、さきほどの3事業の反転です。12億4,700万円を15億7,100万円で割ると、8割近くになります。ここは私の割り算です。
……いや、これは言い方を変えないといけない。
投資事業の中身だけは性質が違います。短信の5ページ目に「当社が保有する株式を一部売却しました」とあり、営業利益3億7,400万円がそれにあたります。商売で稼いだものではありません。同じ日の決算説明資料では、この事業の通期の利益計画をゼロと置いています。そのうえで、連結全体の進み具合に合わせて売却を行う方針だと書かれています。
利益のいちばん厚い事業だけが、減益でした
5つのうち唯一減ったのが、プレスリリース配信です。売上は46億7,400万円から50億4,900万円へ増えています。伸び率は8.0%です。営業利益は1億4,100万円減りました。
この事業の利益率は3割を超えています。グループ全体が16.1%ですから、倍以上の厚みです。ここが1億円減ると、薄い事業の1億円とは重みが違います。
利用している企業は13万3,784社まで増え、配信件数も四半期として過去最高を更新したと、短信の4ページ目にあります。売上も件数も伸びている事業の利益が減りました。会社はその理由を「販売費及び一般管理費を当初計画に沿って執行したことにより、営業利益は計画通りの水準を確保いたしました」と書いています。使うと決めていた分を予定どおり使った、ということです。
純利益が倍になったのは、税金が3億1,300万円減ったからです
ここで引っかかりました。税金を引く前の中間純利益は38億3,600万円から53億6,300万円へ、4割伸びています。ところが、そこから引かれる法人税等は14億8,300万円から11億7,000万円へ減っていました。
税引き前に対する割合は、4割近くから2割ほどへ下がりました。おおよそ半分です。この差が、4割の増益を倍の増益へ押し上げています。
短信の4ページ目に会社の説明があります。中間純利益が予想を上回ったため、同じ日に「法人税等(益)の計上並びに第2四半期(中間期)連結業績予想と実績との差異に関するお知らせ」を別に公表した、とあります。ただ、その益がどこから生まれたのかは決算短信には書かれていません。別の開示を見るよう案内されていますが、私はまだそれを開いていません。
手がかりは貸借対照表のほうにありました。繰延税金資産が3億4,500万円増えています。減った税金3億1,300万円と近い大きさです。将来払う税金が減る見込みを資産として立てた分だ、と私は受け取りました。
利益と現金のずれにも触れておきます。営業活動によるキャッシュ・フローは51億8,900万円から28億6,200万円へ減りました。純利益36億4,400万円を下回っています。短信の6ページ目によると、法人税等の支払額が6億2,800万円増えています。加えて、前年は未収入金が15億7,400万円減って現金が入ってきていました。今回はその分がありません。
会社はどう説明しているか
売上が伸びた理由を、会社は市場の側から説明しています。短信の4ページ目に、外部の調査が引かれています。2025年の日本の総広告費は8兆623億円で、4年連続の過去最高を更新しました。そのうちインターネット広告費が4兆459億円です。SNSの縦型動画の需要が伸びたことが、その背景に置かれています。
そのうえで、SNS領域を強くするためM&Aを含むグループ基盤の強化に取り組んだ、と書いています。実際、期の途中で株式会社AILESを連結に加え、のれんが8億7,000万円発生しました。
ここまでは素直に受け取ります。PR・広告の売上は161億6,900万円から178億900万円へ伸び、利益も2割増えました。ただ、同じページにある「特定産業に依存しない分散型」という言い方は、今回の半年には当てはまりません。今回の増益を作ったのは分散したそれぞれではなく、去年つまずいた3つの戻りだったからです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
通期予想は、売上高680億円、営業利益100億円です。経常利益は98億円、純利益は55億円が置かれています。10月15日の短信でも据え置かれました。
| 項目 | 上期実績 | 残り6か月 | 通期予想 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 328億7,700万円 | 約351億2,300万円 | 680億円 |
| 営業利益 | 53億100万円 | 約46億9,900万円 | 100億円 |
| 純利益 | 36億4,400万円 | 約18億5,600万円 | 55億円 |
約の付いた数字は、通期予想から上期の実績を引いた私の引き算です。
営業利益は5割、純利益は3分の2まで来ています。半年経った時点の目安が5割ですから、どちらも先行しています。
その一方で、残り半年の純利益18億5,600万円は、前年の同じ半年と比べて4割以上少ない水準です。会社は通期を動かしませんでした。上期に出た税金の益を、下期には続かないものとして扱っている、と私は考えています。
私はどう読んだか
私は、これを「主力が大きく伸びた半年」ではなく「去年の赤字が消えた半年」だと考えています。理由は、増えた営業利益15億7,100万円のうち12億4,700万円が、前年赤字だった3事業の反転だからです。しかも、そのうち3億7,400万円は保有株の売却益です。
本体が止まっているわけではありません。PR・広告は2割の増益で、タクシーのサイネージも戦略PRも伸びています。それでも、いちばん利益率の厚いプレスリリース配信が減益で、そこを周辺が埋めた形になりました。
心配性なので、下のほうから見ます。全事業黒字という形は、戻ってきた3つが黒字を続けて初めて意味を持ちます。そのうちの1つは、株を売るかどうかで決まる事業です。
出典:決算短信(会社発表)

法人税等が益になった中身が、どの税目のどんな処理から出たものなのかは、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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