はじめに
IGポートは、アニメを作る会社です。テレビの深夜枠で放送されるシリーズ、映画館にかかる劇場版、配信サービス向けの作品を、注文を受けて制作しています。
収入は作って納めた時点で終わりではありません。作品ごとに組まれる製作委員会に出資していれば、配信やグッズ、海外での放送から分配金が入ってきます。短信ではこれを版権事業と呼んでいます。もう一つ、漫画の出版社を子会社に持っていて、電子書籍の売上が出版事業の大半を占めています。
制作の代金を払うのは、視聴者ではありません。放送局や配給会社、製作委員会です。視聴者のお金は、その奥を回ってから届きます。うちの娘はまだこういうアニメを見る年ではありませんが、短信に並ぶ題名のいくつかは、通勤電車の広告で覚えがありました。
営業利益は7割増、予想は据え置き
2026年10月15日に出た、2027年5月期の第1四半期決算です。6月から8月までの3か月分です。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 33億600万円 | 30億6,300万円 | +7.9% |
| 営業利益 | 3億4,200万円 | 1億9,600万円 | +74.1% |
| 経常利益 | 3億8,400万円 | 2億1,100万円 | +81.7% |
| 純利益 | 2億9,000万円 | 1億9,900万円 | +45.8% |
売上の伸びは1割に届きません。それなのに、利益は大きく増えました。通期の予想は7月に出したまま動いておらず、減益の見込みです。
赤字だった制作が、版権と入れ替わった
事業ごとの表を前年と並べました。
| 事業 | 売上高 今回 | 売上高 前年同期 | 営業損益 今回 | 営業損益 前年同期 |
|---|---|---|---|---|
| 映像制作 | 22億5,002万円 | 18億9,207万円 | 2億7,662万円 | △1億3,660万円 |
| 出版 | 5億3,622万円 | 5億5,517万円 | 8,023万円 | 9,007万円 |
| 版権 | 3億8,668万円 | 5億21万円 | 9,005万円 | 3億2,303万円 |
| 商品販売 | 6,456万円 | 4,816万円 | △4,152万円 | △1,968万円 |
出典:決算短信のセグメント情報。
増益の出どころは、ほぼ映像制作だけです。前年の1億3,660万円の赤字が、2億7,662万円の黒字になりました。振れ幅は約4億1,300万円です。会社全体の増益幅は約1億4,500万円なので、その3倍近くあります。この2つは私の引き算です。
その差の大半を打ち消したのは、版権事業です。営業利益が約2億3,300万円減りました。前年の第1四半期は版権が稼いで制作が赤字、今年はその逆です。
版権の内訳では、製作委員会からの分配にあたる「その他の収益」が2億3,753万円から1億7,343万円に減っています。会社全体の減価償却費も、8,712万円から1億7,403万円へほぼ倍になりました。何の償却が増えたのかは、決算短信には書かれていません。
「計上」と書かれた受注損失引当金は、1億円減っていた
制作の説明文に、こういう一文があります。「一部の作品については、制作期間の長期化による人件費の増加や外注費等が高騰しており、受注損失引当金を計上しております」。赤字になると分かった作品の損を、先に費用にしておく仕組みです。
ところが貸借対照表では、受注損失引当金の残高が前期末の7億6,974万円から6億6,940万円へ減っています。減った額は1億34万円です。新しく積んだ額より、取り崩した額のほうが多かったわけです。……計上したのに、減っている。ここで引っかかった。
取り崩しは、損を見込んでいた作品が実際に作られ、納品されたときに起きます。その作品の損は前の期までに費用として計上済みなので、この3か月の利益を押し下げません。ここまでは引当金の一般的な仕組みです。
制作の黒字には、損を前の期に計上し終えた作品の納品が含まれている、と私は受け取りました。
現金の増加より、前受金の増加が大きい
この第1四半期は、キャッシュ・フロー計算書が作成されていません。お金の動きは、貸借対照表の差から追うしかありません。
現金及び預金は5億2,980万円増えました。一方で前受金は、8億8,179万円から16億401万円へ、ほぼ倍になっています。作品を納める前に受け取った代金です。逆に買掛金は2億3,831万円減り、自己株式の取得に1億3,004万円を使っています。
前受金の増加は現金の増加より大きく、増えた現金はその範囲に収まっています。純利益2億9,000万円がどれだけ現金になったのかは、計算書が無いので確かめられません。前受金の増加そのものは、これから納める仕事の代金を先に受け取っているということで、悪い話ではありません。説明文には、制作中の劇場版の題名が並んでいます。
会社はどう説明しているか
出版事業については、アニメ化された作品の電子書籍が売れた一方、紙の本は刊行の時期がずれて前年同期をわずかに下回った、と書いています。表の動きと合っているので、そのまま受け取ります。
商品販売の赤字の拡大は、今後の展開に向けた費用の先行だそうです。規模が小さいので、ここは深追いしません。
版権事業については、主なシリーズの名前を挙げて分配を計上した、と書くだけです。減益の理由として挙げているのは減価償却費の増加だけで、売上が2割以上減った理由は、決算短信には書かれていません。表紙に「決算補足説明資料作成の有無:有」とあるので、そちらに説明があるのかもしれませんが、私はまだ開いていません。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 通期予想 | 第1四半期 | 進捗率 | 残り9か月 | |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 145億7,800万円 | 33億600万円 | 約22.7% | 約112億7,200万円 |
| 営業利益 | 5億7,900万円 | 3億4,200万円 | 約59.1% | 約2億3,700万円 |
| 経常利益 | 5億4,600万円 | 3億8,400万円 | 約70.3% | 約1億6,200万円 |
| 純利益 | 3億1,100万円 | 2億9,000万円 | 約93.2% | 約2,100万円 |
約の付いた数字は、表紙の通期予想と第1四半期の実績から私が出したものです。
売上は4分の1に少し届かない一方、純利益は通期予想の9割を超えました。残り9か月で見込む純利益は、2,100万円しかありません。7月15日に出た前期の通期決算では、純利益が6億6,900万円でした。そこから前年の第1四半期の1億9,900万円を引くと、前期の残り9か月は4億7,000万円です。それがほぼ消える見込みになっています。
会社はこの3か月の結果を知ったうえで、予想を変えませんでした。配当は前期の8円50銭から13円に増やす予定のままで、予想の純利益の8割を超える額を配当に回すことになります。
私はどう読んだか
制作の採算が本当に良くなったのか。損を先に計上していた作品の納品が、この3か月に集まっただけなのか。この2つのどちらかだと思います。
私は後者の見方をしています。理由は、引当金の残高が1億円減っていることと、会社が残り9か月の大幅な減益を見込んだまま予想を動かしていないことの2つです。制作の現場が稼ぎ始めたのなら、予想に何かしらの手を入れるはずです。
心配性なので、良かった3か月より、版権が減った理由のほうが気になっています。上がるかは知りません。次の第2四半期で、事業別の表をもう一度並べます。
出典:決算短信(会社発表)

受注損失引当金を作品ごとにいくら積み、いくら取り崩したのかは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


コメント