中外製薬(4519)2026年12月期 第3四半期決算分析・続報――卸への前倒し出荷が気になります

中外製薬(4519)2026年12月期 第3四半期決算分析・続報――卸への前倒し出荷が気になります 日本株

はじめに

中外製薬は、抗体と呼ばれる大きな分子の薬を得意とする製薬会社です。多くは飲み薬ではなく、病院で注射や点滴をして使います。血友病の人が出血を防ぐために定期的に打つ薬、加齢で視力が落ちていく目の病気に眼科で打つ薬、リンパ腫の治療で点滴する薬が主力です。どれも、ほかの薬では代わりが利きにくいものです。

国内では医師の処方を通して売れ、値段は国が決めます。海外では、親会社にあたるスイスのロシュや導出先へ、自社で開発した薬を輸出しています。他社に権利を渡した薬の売上に応じて受け取るロイヤルティも、収入の大きな柱です。

この会社の決算を読むのは2回目です。前の記事では、7月に出た中間決算を読みました。そのときは、一時金の額が短信に無いこと、在庫が増えていたこと、好調なのに通期予想が据え置かれたことが気になっていました。今回はその続きです。

この決算で何が起きたか

10月27日に出た、1月から9月までの9か月分の決算です。

項目今回前年同期増減率
売上収益1兆680億7,400万円9,116億4,000万円+17.2%
営業利益5,225億7,000万円4,298億2,700万円+21.6%
経常利益———
純利益3,753億200万円3,056億200万円+22.8%

経常利益の行が空いているのは、IFRSにその科目が無いからです。伸び方は中間決算より一段強くなっています。

7月から9月に、卸への出荷を前倒ししていました

引っかかったのは、短信4ページ目の説明文の一文です。国内事業所で新しい基幹業務システムを動かすための移行対応として、医薬品卸向けの出荷を7月から9月の間に前倒しした、と会社自身が書いています。そのぶん国内の製品売上が増えた、という説明です。

前倒しした額は、決算短信には書かれていません。手がかりになったのは、最後のほうにある主要顧客の注記でした。国内の大手卸であるアルフレッサのグループ向けの売上が、前年同期の1,108億1,100万円から1,401億800万円へ増えています。

引き算すると、増えた幅は292億9,700万円です。国内の製品売上の増加626億1,000万円の半分近くを、この1社が占めています。ただ、このうちどこまでが前倒しで、どこからが新製品の伸びなのかは、注記の数字では分けられません。

7月から9月の3か月だけを取り出すと

9か月の累計から中間決算の数字を引くと、7月から9月の3か月分が出ます。

項目1〜6月(半年)7〜9月(3か月)
売上収益6,633億3,100万円約4,047億4,300万円
その他の売上収益968億4,400万円約644億1,200万円
営業利益3,196億2,300万円約2,029億4,700万円

約の付いた数字は、9か月の累計から中間決算の数字を私が引いたものです。

半年で稼いだ営業利益の3分の2近くを、3か月で稼いでいます。……多すぎる。

理由の一つは前倒しの出荷です。もう一つは、ロイヤルティや一時金が入る「その他の売上収益」で、3か月で半年分の3分の2ほどが入りました。会社はその増加の理由に、今回も一時金収入を挙げています。一時金がいくらだったのかは、前回と同じく決算短信には書かれていません。

前回気にした在庫は、9月末に減っていました

中間決算で増えていた棚卸資産は、6月末の3,175億8,000万円から、9月末には2,908億600万円まで下がりました。3か月で267億円ほど減った計算です。仕込んだ薬が出荷されていった形で、前回の「出荷前の仕込みかもしれない」という見方とは矛盾しません。

売掛金の側にも、出荷の跡があります。営業債権の合計は期首より減りましたが、ロシュ向けの債権を除くと、1,954億800万円から2,144億7,700万円へ増えています。この2つは、営業債権の合計から、関連当事者の注記にあるロシュ向けの債権を私が引いた数字です。卸へ出した薬の代金が、9月末時点でまだ回収されていない、と私は読みました。

会社はどう説明しているか

国内の伸びについて、短信はポライビー、ヘムライブラ、バビースモと、新製品のルンスミオ、エレビジスの名前を挙げています。海外では、ガルデルマ向けのNEMLUVIOとロシュ向けのアレセンサの輸出が増えた、という説明です。

製品の原価率は1.6ポイント上がっていて、理由は製品ごとの売上構成の変化だとしています。販売費及び一般管理費の増加は、外形標準課税と一時的な諸経費のためだそうです。

薬の名前と伸びた理由は、そのまま受け取ります。前倒しを自分から書いている点は誠実です。ただ、短信に額が書かれていないので、国内の伸び率には留保を付けます。

通期予想に対して、どこまで来ているか

通期予想は、一時的な項目を除いたCoreという自社の指標で出ています。1月に出したものから、今回も変えていません。

項目9月までの実績通期予想進捗率
売上収益1兆680億7,400万円1兆3,450億円79.4%
Core営業利益5,360億5,800万円6,700億円80.0%
Core当期利益3,846億7,900万円4,850億円79.3%

4分の3を過ぎた時点で8割まで来ています。前年と並べると、この予想が10月から12月に何を見込んでいるのかがはっきりします。

表紙には、Core営業利益の予想が前期比+7.5%と載っています。6,700億円を1.075で割り戻すと、前期の通期はおよそ6,233億円です。短信4ページ目の表では、前年の9か月分は4,505億円です。6,233億円からこれを引くと、前年の10月から12月はおよそ1,728億円だったことになります。今年は、通期予想の6,700億円から9か月分の5,361億円を引きます。残りは1,339億円です。

Core営業利益1〜9月10〜12月通期
前年 実績4,505億円約1,728億円約6,233億円
今年5,361億円約1,339億円6,700億円(会社予想)

前年に1,728億円稼いだ3か月を、今年は2割強少なく見込んでいるわけです。

私はどう読んだか

前の記事では、予想の据え置きを「慎重なだけ」と考えていました。その見方は足りていませんでした。理由は、7月の時点で私は出荷の前倒しを勘定に入れていなかったからです。前倒しした分、10月から12月に卸が仕入れる量は減ります。残り3か月が軽く見込まれているのには、具体的な理由がありました。

なので私は、7月から9月の勢いではなく、9か月の合計のほうがこの会社の実力だと考えています。前倒しは年をまたがない社内の都合で、合計には影響しないからです。9か月の合計で利益が2割増えている、という数字は動きません。

心配性なので、一つだけ気にしています。前倒しの額が大きければ、10月から12月は前年を大きく下回る数字になります。そこで驚かないように、いま書いておきます。上がるかは知りません。

出典

出典:決算短信(会社発表)

https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_1_78.pdf&src=%5B%250%5D%2C%5B%251%5D&rep=119%2C78

卸へ前倒しした出荷の額と、7月から9月に入った一時金の額は、決算短信からは読み取れませんでした。


調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。

全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。

買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。

本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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