がんと目の病気の薬を、米国を最大の市場に売る製薬会社
アステラス製薬は、医師が処方する薬を作っている会社です。ドラッグストアの棚には並びません。いちばん大きい製品は前立腺がんの治療薬で、ほかに尿路のがん、胃がん、白血病の薬があります。
がん以外では、加齢で網膜が傷んでいく目の病気の薬や、閉経に伴うほてりなどの症状に使う薬も持っています。患者さんがこれらを手にするのは、医師の処方を受けたときです。
売上は日本より米国のほうがずっと大きく、業績は為替に左右されます。今回の決算は、最大の製品から次の製品へ稼ぎ手が移っていく途中の記録でした。
売上は2割強、利益は6割近く増えた半年
11月4日に出た中間決算で、4月から9月までの数字です。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高(短信では売上収益) | 1兆2,708億6,100万円 | 1兆301億1,400万円 | +23.4% |
| 営業利益 | 3,165億5,600万円 | 1,993億7,800万円 | +58.8% |
| 経常利益 | — | — | — |
| 純利益 | 2,416億7,700万円 | 1,476億3,500万円 | +63.7% |
IFRSの短信なので、経常利益の欄はありません。ここだけ見れば、文句の付けようがない半年です。
営業キャッシュ・フローの減少は、前年の返金負債で説明が付きました
添付資料16ページのキャッシュ・フロー計算書で引っかかりました。税引前中間利益が1,228億円増えたのに、営業キャッシュ・フローは125億円減っています。
| 項目 | 前年同期 | 今回 |
|---|---|---|
| 税引前中間利益 | 1,946億600万円 | 3,174億5,400万円 |
| 返金負債の増減額 | 1,228億2,300万円 | 448億5,400万円 |
| 売上債権及びその他の債権の増減額 | △608億8,400万円 | △757億7,100万円 |
| その他 | △277億6,400万円 | △522億600万円 |
| 法人所得税の支払額 | △472億2,600万円 | △853億5,900万円 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 2,825億9,900万円 | 2,700億5,600万円 |
短信の説明文が挙げているのは、法人所得税の支払いが381億円増えたことです。ただ、それだけでは足りません。
前年の欄を見ると、返金負債の増減額が1,228億円のプラスでした。偶然ですが、利益の増加額と同じ金額です。今回は449億円のプラスです。前年の1,228億円からこれを引くと約780億円で、そのぶん現金を押し上げる力が小さくなっています。
返金負債は、あとで相手に戻す見込みの金額を、売上から差し引いて積んだ負債です。製薬会社なら、卸や保険者へのリベートが思い浮かびます。ただし内訳は短信には書かれていません。残高は9月末で4,613億7,100万円あり、流動負債の中で最大の科目です。
この科目が増える間は、まだ払っていない分だけ現金が手元に残ります。ここまでは計算書の数字です。稼ぐ力が落ちたのではなく、前年の欄が膨らんでいた、と私は読みました。1ページ目は嘘をつきません。ただ、全部は言いません。
現金及び現金同等物は434億円減りましたが、この半年で社債及び借入金を1,410億円減らしています。親会社所有者帰属持分比率も51.3%から56.2%へ高まりました。現金の減少は返済の結果で、心配する種類のものではありません。
最大の製品XTANDIは、為替を除くと前年並みでした
増えた売上を製品ごとに分けると、伸びている場所とそうでない場所がはっきり分かれます。
| 製品 | 前年同期 | 今回 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 重点戦略製品計 | 2,205億円 | 3,339億円 | +51.4% |
| PADCEV | 1,025億円 | 1,583億円 | +54.5% |
| IZERVAY | 341億円 | 562億円 | +64.5% |
| VYLOY | 266億円 | 459億円 | +72.7% |
| VEOZAH | 229億円 | 307億円 | +33.8% |
| XOSPATA | 344億円 | 429億円 | +24.5% |
| XTANDI | 4,770億円 | 5,337億円 | +11.9% |
重点戦略製品と呼ぶ5つが、そろって伸びています。1つの薬に頼った増収ではありません。
一方で、最大の製品は今もXTANDIです。5,337億円を売上の1兆2,709億円で割ると、4割強になります。短信の説明は「為替の影響も増加要因」までで、下期の話は書かれていません。
説明会資料には、為替影響を除くと前年同期並みの売上水準だとあります。米国のインフレ抑制法の影響により、下期は売上の減少を見込むとも書かれています。稼ぎ頭の減少は、短信を読むだけでは分かりませんでした。
為替の影響も小さくありません。短信によると、売上収益を993億円押し上げています。これを増えた2,407億円で割ると、増収の約4割が為替です。
計算の合わない部分も残ります。重点戦略製品の増加は1,134億円、XTANDIの増加は567億円です。増収の2,407億円からこの2つを引くと、706億円余ります。主要製品の表に載っていない薬の増加分です。短信は上方修正の理由にミラベグロンの名前を挙げていますが、この薬は主要製品の表にありません。
費用の管理は数字に出ています。「前年並み」には条件があります
短信の説明では、増収の主な要因は重点戦略製品の売上拡大です。費用については、SMTと呼ぶコスト最適化で販管費を約100億円、研究開発費を約80億円減らしたとしています。上方修正の理由は、製品の好調な進捗、為替、着実な費用管理の3つです。
製品の伸びは上の表で確かめられるので、そのまま受け取ります。販売費及び一般管理費も、売上が2割強伸びるなかで6.6%増に収まりました。
気を付けたいのは言い方です。説明会資料の「販管費は前年同期並み」は、米国でのXTANDI共同販促費用と為替影響の両方を除いた話です。総額は増えています。
営業利益の進捗率は7割近く。下期は減収を見込んでいます
表紙の通期予想は今回上方修正され、売上収益は2兆3,300億円、営業利益は4,600億円になりました。
| 通期予想 | 上期実績 | 進捗率 | 残り6か月 | 前年の下期 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆3,300億円 | 1兆2,708億6,100万円 | 約54.5% | 約1兆591億3,900万円 | 約1兆1,091億3,100万円 |
| コア営業利益 | 7,000億円 | 4,249億2,800万円 | 約60.7% | 約2,750億7,200万円 | 約2,730億4,900万円 |
| 営業利益 | 4,600億円 | 3,165億5,600万円 | 約68.8% | 約1,434億4,400万円 | 約1,832億5,500万円 |
約の付いた数字は、短信にある通期予想と前期実績、上期実績、前年同期から私が引き算と割り算をしたものです。
通期予想のとおりなら、下期の売上収益は前年の下期を5%近く下回り、営業利益は2割強減ることになります。為替の想定は1ドル156円です。前年は通期平均が151円、上期が146円でした。上期と下期の平均が通期だと単純に考えると、前年の下期は156円前後になります。上期にあった前年同期比13円ぶんの円安の上乗せは、下期の想定には入っていません。
引っかかったのは、コア営業利益との差です。コア営業利益は、無形資産償却費や減損などを除いた、収益力を示す利益です。下期はこちらが前年並みなのに、営業利益だけが2割強減ります。
下期のコア営業利益は2,750億7,200万円、営業利益は1,434億4,400万円の計算です。引き算すると、下期の差額は1,316億2,800万円です。無形資産償却費が上期と同じ713億円だとすると、残りは約603億円になります。上期のその他の費用は、開発中止に伴うASP5541の減損264億円まで含めて382億円でした。
上期を上回る費用を、下期にも見込んでいる計算です。……これは何の費用だ。その中身は、短信にも、私が読んだ説明会資料の23ページまでにも書かれていません。期初予想でもコアとの差は2,250億円あったので、今回急に出てきた話ではないようです。
良い決算だと考えています。力の目安は下期のほうです
上期の勢いをこの会社の力と見るか、下期の予想に近いところを力と見るか。私は後者の見方をしています。理由は、円安の上乗せが下期の想定では消え、最大の製品の減少も会社自身が見込んでいるからです。
それでも、良い決算だと考えています。コア営業利益の増加は1,423億円で、為替の分は412億円です。これを引いても、約1,011億円残ります。XTANDIの減少を見込む下期でも、コア営業利益の予想は前年並みです。稼ぎ手の入れ替わりが、数字になって出てきました。
気がかりは約603億円のほうです。2015年に決算を読まずに痛い目に遭って以来、説明の見つからない差額を読み飛ばせなくなりました。この先どう動くかは、私には分かりません。
出典:決算短信(会社発表)
下期に見込む約603億円の中身と、ミラベグロンの売上額は読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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