はじめに
住友電気工業は電線の会社です。ただ、壁の中を通るコードの会社と思うと、ずいぶん外れます。発電所から街へ電気を送る電力ケーブル、クルマの中に張りめぐらされたワイヤーハーネス、データセンターの中や施設同士をつなぐ光ファイバーと光の部品。電気と情報を通す線と、その継ぎ目を広く手がけています。
線のほかにも、金属を削る工具の刃先に使う超硬製品や、スマホに入る薄くて曲がる配線板を作っています。製品を使うのは自動車メーカー、電力会社、通信会社、データセンターを建てる会社です。最後に恩恵を受けるのは私たちですが、製品を手に取ることはまずありません。
この会社は8月にも取り上げています。7月31日に出た第1四半期の決算で、売上のいちばん大きい自動車が増収なのに減益だったこと、通期の純利益予想が前期を下回る理由が短信に無かったことに引っかかりました。キャッシュ・フロー計算書も無く、現金の動きは確かめられないままでした(前の記事)。
この決算で何が起きたか
10月30日に出た中間決算です。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7,649億1,200万円 | 2兆3,734億6,100万円 | +16.5% |
| 営業利益 | 2,195億6,700万円 | 1,530億2,100万円 | +43.5% |
| 経常利益 | 2,312億4,100万円 | 1,555億1,600万円 | +48.7% |
| 純利益 | 1,593億8,400万円 | 979億3,800万円 | +62.7% |
会社はどの利益も過去最高だと書いています。通期予想は7月に続いて2回目の引き上げで、配当予想も同じ日に引き上げました。
自動車の減益は、7月から9月に広がっていた
引っかかったのは、前回と同じ自動車です。上期の累計で見ると、売上は2,383億5,900万円増え、営業利益は116億800万円減りました。第1四半期の時点では、減益はわずかでした。上期の累計から第1四半期を引くと、7月から9月の3か月だけを取り出せます。
| 自動車の営業利益 | 第1四半期 | 7月〜9月 | 上期累計 |
|---|---|---|---|
| 前年 | 265億8,700万円 | 約388億1,800万円 | 654億500万円 |
| 今年 | 260億2,600万円 | 約277億7,100万円 | 537億9,700万円 |
約の付いた数字は、上期累計から第1四半期を引いた私の引き算です。
前年の7月から9月に388億円あった利益が、今年は278億円ほどでした。上期の減益のほとんどが、この3か月に集まっています。……売上は増え続けているのに、だ。
前の記事では、この減益は売上の大きさに比べれば誤差の範囲だ、という見方もできると書きました。その見方は外れました。3か月で110億円を超える差は、誤差では片づけられません。
一方で、ほかの事業はこう動いています。
| セグメント | 上期の営業利益 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 環境エネルギー | 332億600万円 | 344億6,100万円 | △12億5,500万円 |
| 情報通信 | 612億3,700万円 | 220億7,500万円 | +391億6,200万円 |
| 自動車 | 537億9,700万円 | 654億500万円 | △116億800万円 |
| エレクトロニクス | 285億7,400万円 | 179億8,600万円 | +105億8,800万円 |
| 産業素材他 | 426億7,100万円 | 129億300万円 | +297億6,800万円 |
情報通信は、上期の営業利益で自動車を上回りました。売上は自動車の8分の1ほどしかありません。会社全体の利益を引っぱる役は、はっきり入れ替わっています。
前回確かめられなかった現金は、在庫に回っていた
今回の短信には、添付資料の9ページ目にキャッシュ・フロー計算書があります。前年の上期と並べます。
| 項目 | 前年上期 | 今回 |
|---|---|---|
| 税金等調整前中間純利益 | 1,581億1,600万円 | 2,362億6,700万円 |
| 棚卸資産の増減額 | △239億3,100万円 | △2,135億1,700万円 |
| 仕入債務の増減額 | 98億100万円 | 690億3,800万円 |
| 法人税等の支払額 | △274億5,500万円 | △552億7,300万円 |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 2,519億4,400万円 | 1,393億9,400万円 |
税引前の利益は1.5倍になったのに、営業キャッシュ・フローは4割以上減りました。いちばん大きいのは棚卸資産で、在庫が増えたぶん2,135億1,700万円の現金が出ていっています。仕入先への支払いを後ろにずらした分が690億円ほどありますが、埋めきれていません。
営業キャッシュ・フローは1,393億9,400万円でした。ここから設備投資などの支出1,222億3,500万円を引くと、手元に残るのは171億5,900万円です。配当の支払いは811億2,700万円でした。足りない分は、短期借入金の934億7,000万円の増加などで賄った形です。
在庫の残高は、前回の短信と並べると増え方が分かります。
| 棚卸資産 | 3月末 | 6月末 | 9月末 |
|---|---|---|---|
| 残高 | 1兆181億4,800万円 | 1兆1,399億3,600万円 | 1兆2,198億4,700万円 |
4月から6月で1,217億円ほど、7月から9月で799億円ほど増えています。積み増しは続いていますが、速さは落ちました。
何が増えたのかは、短信には「棚卸資産の増加」としか書かれていません。銅の価格が高くなれば、同じ量でも在庫の金額は膨らみます。データセンター向けの増産に備えた分もあるはずです。増えた在庫に売れ残りが混ざっている、とは今のところ考えていません。理由は、仕入債務も一緒に増えていて、商売の規模が大きくなったときの形をしているからです。自己資本比率も5割を超えたままです。
会社の説明は、7月と同じ言葉だった
会社は上期全体について、中東の影響で原価が上がったと書いています。それでも、売上増加、品種構成の改善、生産性改善、売値改善に円安も加わって、利益が増えたとしています。情報通信は生成AI向けのデータセンター需要、産業素材はタングステンの需給がひっ迫するなかで超硬製品の受注が増えた、という説明です。
伸びた事業の説明は、セグメントの数字と噛み合っているので受け取ります。環境エネルギーの減益も、子会社だった住友電設(現 セムリンクス)が連結から外れた影響だと書いてあり、筋は通ります。
留保をつけたいのは自動車です。減益の理由は、7月の短信と同じく中東情勢による原材料価格の上昇と銅価格の上昇です。言葉は同じなのに、減益幅だけが広がりました。7月から9月に何が重くなったのか、売値の改善が自動車でどこまで進んでいるのかは、決算短信には書かれていません。表紙には決算補足説明資料を作ったとありますが、私はそちらをまだ読んでいません。
純利益の予想が、ようやく前期に並んだ
| 通期 | 7月の予想 | 今回の予想 | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5兆4,000億円 | 5兆7,500億円 | 5兆1,101億7,100万円 |
| 営業利益 | 4,500億円 | 5,000億円 | 4,181億7,300万円 |
| 純利益 | 3,400億円 | 3,700億円 | 3,695億800万円 |
上期の営業利益2,195億6,700万円は、通期予想5,000億円の4割強です。前年の上期は通期実績の4割弱でした。どちらも私の割り算です。下期に偏る会社なので、半分に届いていないこと自体は心配していません。
前の記事でいちばん引っかかったのは、純利益の予想が前期を下回っていたことでした。今回3,700億円に引き上げられ、前期とほぼ並びました。それでも営業利益は2割近く増やす予想で、純利益だけが横ばいです。下期で分けると、理由の手がかりが見えます。
| 上期 | 下期 | 通期 | |
|---|---|---|---|
| 前期 営業利益 | 1,530億2,100万円 | 約2,651億5,200万円 | 4,181億7,300万円 |
| 今期 営業利益 | 2,195億6,700万円 | 約2,804億3,300万円 | 5,000億円 |
| 前期 純利益 | 979億3,800万円 | 約2,715億7,000万円 | 3,695億800万円 |
| 今期 純利益 | 1,593億8,400万円 | 約2,106億1,600万円 | 3,700億円 |
今期の上期は実績、下期と通期は会社予想です。約の付いた下期の数字は、通期から上期を引いて出しました。
前期の下期は、税金を払ったあとの純利益が営業利益を上回っています。本業の外から大きな利益が加わった期の形です。住友電設が連結から外れたのは前期です。そのとき株を手放した利益が乗っていたのなら、今期の純利益が横ばいなのは前期が膨らんでいたからだ、と私は読みました。前期にそうした利益があったかどうかは、この短信には書かれていません。
私はどう読んだか
私はこの決算を、良い決算だという見方をしています。理由は、情報通信と産業素材の利益が、7月から9月にも前年を大きく上回っていて、伸びが一時のものに見えないからです。在庫の積み増しも、売上が伸びて銅の価格が高い局面なら説明が付きます。
それでも、売上の半分以上を持つ自動車の減益が3か月で広がったことは、前回より重く受け止めています。上がるかは知りません。
出典:決算短信(会社発表)
自動車の減益が7月から9月に広がった理由と、増えた在庫のうち銅の価格による分と量による分の内訳は、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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