はじめに
鉄を作る会社です。鉄鉱石と石炭を高炉で溶かして鋼にし、板や管や形鋼にして売ります。薄い板は自動車の車体や冷蔵庫の外側になり、厚い板は船や橋や風力発電の塔になります。電気を通しにくい特殊な板は、モーターの芯に使われます。私たちが鉄の板を買うことはありませんが、身の回りの重いもののかなりの部分が、こういう会社から出た鉄でできています。
持株会社の下に、鉄を作る会社、ごみ処理施設や橋を建てる会社、鉄と原料を売り買いする商社の3つがぶら下がっています。買うのは自動車や造船や建設で、鉄の値段は買い手と決めます。鉄鉱石と石炭は海外から買います。だから、売り値と原料の値段の差がそのまま利益の形になる商売です。
今回読んだのは、8月5日に出た第1四半期の決算短信です。
この決算で何が起きたか
IFRSなので経常利益の行はありません。代わりに、会社自身が「代表的指標」と呼んでいる事業利益と、税引前の利益を置きます。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆1,611億7,800万円 | 1兆1,153億1,300万円 | +4.1% |
| 事業利益 | 323億1,300万円 | 162億6,100万円 | +98.7% |
| 税引前四半期利益 | 409億8,500万円 | 103億7,700万円 | +295.0% |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 312億2,900万円 | 71億2,800万円 | +338.1% |
売上は4%しか増えていないのに、利益は倍から4倍になっています。これだけ見ると、鉄の商売が急に良くなったように読めます。
事業利益と営業利益が、150億円ずれている
損益計算書の7ページ目には、事業利益323億1,300万円の下に「土地売却益150億4,600万円」という行があります。その下の営業利益は473億6,000万円です。会社は一過性のものを事業利益から外して見せています。ここは誠実な作りです。
ただ、税引前の利益が4倍になった理由の3分の1以上は、この土地です。どこの土地なのかは、決算短信には書かれていません。後で出てくる扇島の土地とは別で、あちらの譲渡は2028年3月以降の予定です。
鉄鋼の黒字30億円は、どうやってできたか
3つの事業を分けて見ます。単位は補足資料と同じ億円です。
| セグメント利益 | 前年同期 | 今回 | 差 |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼 | △121億円 | 30億円 | +151億円 |
| エンジニアリング | 57億円 | 89億円 | +32億円 |
| 商社 | 126億円 | 113億円 | △13億円 |
| 調整額 | 41億円 | 26億円 | △15億円 |
| 合計 | 103億円 | 259億円 | +156億円 |
利益が増えた分のほとんどは鉄鋼です。赤字から黒字に戻っています。
ここで引っかかったのが、13ページ目の増減表です。会社は鉄鋼の+151億円を、要因ごとに分けて載せています。
| 要因 | 金額 | 会社の書いた中身 |
|---|---|---|
| コスト | +70億円 | 操業改善等 |
| 数量・構成 | ±0 | |
| スプレッド | △450億円 | 国内外の鋼材の値段の低迷、主原料価格の高騰、中東影響による諸コスト上昇 |
| 棚卸資産評価差等 | +470億円 | 評価差+360、キャリーオーバー影響+40、為替換算差+70 |
| その他 | +61億円 | グループ会社+60 |
スプレッドとは、売り値と原料や燃料の値段の差です。これが前年より450億円悪くなっています。鉄を作って売る商売そのものは、前年の赤字の時期より、さらに悪い条件で回っていたことになります。
黒字にしたのは棚卸資産評価差等の+470億円です。原料の値段が上がると、安い時期に仕入れて倉庫にある原料の値打ちが上がり、その分だけ帳簿の利益が膨らみます。それに為替の換算差が乗っています。……いや、これは戻ってくる種類の数字だ。
ここまでは会社が自分で書いた増減表の数字です。鉄鋼の黒字30億円は、商売の改善ではなく在庫の評価で作られたもの、と私は読みました。
下期は、その評価差が剥がれる置き方
同じ13ページ目に、上期見通しから下期見通しへの差も載っています。鉄鋼のセグメント利益は下期に400億円増える計画です。その中身は、スプレッドが+590億円、棚卸資産評価差等が△300億円です。
つまり第1四半期に黒字を支えた評価差は、下期に300億円分はがれると会社自身が置いています。それを埋めて余りあるのが、鋼材価格の改善で取りに行く590億円です。第1四半期に450億円悪化した売り値と原料の差を、下期に590億円取り返す計画だということです。
補足資料の鋼材平均価格を見ると、第1四半期は1トン12万4,200円で、第2四半期以降は13万4,000円程度と置いています。1トンあたり1万円近い値上げが、この計画の土台です。買い手の自動車や造船が、それを飲むかどうかの話です。
返済期限が1年以内の借入が、3か月で3,400億円増えた
6ページ目の負債です。流動の「社債、借入金及びリース負債」が、3月末の4,433億700万円から6月末の7,861億2,400万円へ増えています。3か月で3,400億円ほど増えた計算です。これは私の引き算です。
補足資料に、2016年に借りた劣後ローン1,675億円を期限前に返した、とあります。6月には劣後社債600億円と劣後ローン1,050億円を新たに調達しています。入れ替えとしてはほぼ同額なので、流動負債が増えた説明にはなりません。なぜ1年以内に返すものがこれだけ増えたのかは、決算短信には書かれていません。
第1四半期はキャッシュ・フロー計算書を作っていないので、現金の出入りも見えません。現金は1,678億円から1,804億円へ少し増えています。減価償却は682億700万円でした。
会社はどう説明しているか
4ページ目の「経営成績等の概況」は、「決算補足説明資料をご覧ください」の1行です。会社が自分の言葉で書いた文章は、この短信にはほぼありません。
言葉があるのは13ページ目の増減表の端書きだけです。前年との差については「国内外の鋼材の値段の低迷」「主原料価格の高騰」「中東影響による諸コスト上昇」。下期に向けては「鋼材価格改善推進」「操業改善等」。中東の影響は通期で600億円程度、うち第1四半期に150億円程度と置いています。
短い言葉ですが、方向ははっきりしています。悪くなった原因は外にあり、取り返す手段は値上げです。私はそのまま受け取っていません。理由は、悪化した450億円は既に起きたことで、取り返す590億円はこれから交渉することだからです。同じ表の左右で、確からしさが違います。
通期2,150億円に対して、まだ15%
通期の事業利益予想は2,150億円で、5月8日の前回見通しから動いていません。売上収益は4兆8,000億円から4兆8,500億円へ上げています。第1四半期の事業利益は323億円でした。これを2,150億円で割ると15%ほどになります。これは私の割り算です。
| 事業利益 | 第1四半期 | 7月から9月 | 上期 |
|---|---|---|---|
| 今年 会社予想 | 323億円 | 約577億円 | 900億円 |
上期予想は900億円です。そこから第1四半期の323億円を引くと、7月から9月の3か月で577億円が必要になります。第1四半期の1.8倍近くを、次の3か月で稼ぐ置き方です。値上げが7月から通り始める前提でないと、この数字は出ません。
後発事象の扇島の土地譲渡は、譲渡益450億円程度のうち今期分はゼロです。最初の230億円程度は2027年度、実行は2028年3月の予定です。今期の数字を助けるものではありません。
私はどう読んだか
鉄鋼の黒字転換を、商売の改善と受け取るか、在庫の評価が作った数字と受け取るか。私は後者の見方をしています。理由は、会社の増減表そのものが、売り値と原料の差は前年より450億円悪いと言っているからです。もう一つは、黒字の中身が、下期に剥がれると会社が自分で置いているものだからです。
エンジニアリングが57億円から89億円へ伸びているのは、評価差と関係のない伸びです。ここは素直に良い数字だと受け止めています。
心配性なので、下振れを先に見ます。値上げが計画どおり通れば、この短信の置き方は正しかったことになります。通らなければ、下期の300億円の剥がれだけが残ります。どちらになるかは、私には分かりません。上がるかは知りません。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260805/140120260804508994.pdf
持分法で会計処理されている投資が3か月で8,161億5,300万円から9,584億8,300万円へ増えた理由は、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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