アサヒペンは、家庭用の塗料を作っている会社です。ホームセンターの塗料売場で、缶に入ったペンキやスプレー、はけやローラーを買って、庭の柵や物置や部屋の壁を自分で塗り直す。あの棚に並んでいるもののかなりの部分が、ここの製品です。職人が現場で使う業務用ではなく、休みの日に自分の手で直す人のための塗料です。
同じホームセンターの販路を使って、園芸用品や日用品、ペット用品も扱っています。塗料を置いてもらえる店なら、隣の棚にも置ける、という商売です。そして今年の1月末に、時計用品を扱う会社を買いました。塗料と時計は遠いようですが、店の棚という点でつながっているのだろうと考えています。
8月7日に出た第1四半期の短信です。私が引っかかったのは、売上が5割増えた理由として、会社が自分で書いた「一時的」という言葉でした。
売上は5割増、営業利益は9割増
まず表紙の数字です。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 63億8,300万円 | 42億5,500万円 | +50.0% |
| 営業利益 | 4億3,900万円 | 2億3,400万円 | +87.2% |
| 経常利益 | 4億9,700万円 | 2億6,400万円 | +88.3% |
| 純利益 | 3億1,300万円 | 2億2,700万円 | +37.5% |
前年の第1四半期は減収減益でしたから、そこからの反動もあります。それでも売上が5割増えるのは、塗料の会社では珍しい幅です。この5割の中身を、短信の後ろのページで確かめました。
5割増のうち、4分の1は買った会社の売上です
9ページ目のセグメント表を、前年と並べます。
| 事業 | 売上 前年 | 売上 今回 | 利益 前年 | 利益 今回 |
|---|---|---|---|---|
| 塗料 | 20億5,783万円 | 24億1,278万円 | 1億857万円 | 2億7,870万円 |
| DIY用品 | 13億1,422万円 | 14億614万円 | 8,098万円 | 9,640万円 |
| ペット用品 | 8億2,119万円 | 9億647万円 | 1,572万円 | 1,880万円 |
| 時計用品 | ― | 15億8,821万円 | ― | 1,216万円 |
時計用品は、1月末に子会社にした会社の分がまるごと乗った、今回が初めての行です。売上15億8,821万円は全体の4分の1にあたります。ところがセグメント利益は1,216万円で、売上に対して1%に届きません。売上の4分の1を持ってきて、4つの事業の利益を合わせた中では3%ほど、という配分です。
時計用品を外して、既存の事業だけを見ます。全体の63億8,300万円から15億8,800万円を引きます。すると47億9,500万円になります。前年の42億5,500万円と比べて1割強の増収です。5割増ではなく1割増。それでも塗料、DIY用品、ペット用品の3つとも増収増益で、悪い数字は一つもありません。
塗料は、売上より利益がずっと速く伸びています
その中で塗料だけ、伸び方の形が違います。売上は17%増、利益は2.5倍です。利益率を出すと、こうなります。
| 塗料 | セグメント利益 | セグメント売上 | 利益率 |
|---|---|---|---|
| 前年 | 1億857万円 | 20億5,783万円 | 約5.3% |
| 今回 | 2億7,870万円 | 24億1,278万円 | 約11.6% |
表の利益率は、セグメント利益をセグメント売上で割ったものです。私の割り算ですが、利益率が1年で1割を超えました。
理由を、会社は4ページ目でこう書いています。「中東情勢の影響による石油由来製品の一時的な需要増」。塗料は石油から作ります。値が上がる前に、あるいは品が薄くなる前に、店が仕入れ、人が買った。そういう動きが4月から6月にあった、という説明です。
需要が増えて工場の稼働が上がれば、固定費が薄まって利益率は上がります。ここまでは教科書どおりです。ただ売上17%増で利益率が倍以上になる幅を、量だけで説明できるのか。値上げがあったのか、原料の仕入れ値がたまたま低かったのか、短信には書かれていません。……いや、17%増で2.5倍は大きすぎる。
現金が4億円減った、その裏にあった2つの動き
貸借対照表では、現金及び預金が4億1,200万円減っています。売掛金が1億8,600万円、電子記録債権が3億7,200万円増えました。受取手形も4,423万円から1億1,801万円へ増えました。売上が5割増えれば、まだ回収していない売上も増えます。買掛金や電子記録債務も同じ方向に増えているので、これ自体は珍しくありません。
引っかかったのは、それとは別の2つの行です。一つは保険積立金で、4億2,100万円から2億3,600万円へ減りました。差は1億8,500万円です。営業外収益に保険返戻金1,435万円が新しく載っているので、積み立てていた保険を解約か満期で受け取った、と私は読みました。
もう一つは、有形固定資産の「その他」です。10億5,635万円から12億9,290万円へ増えています。差は、私の引き算で2億3,655万円です。この3か月の減価償却費は8,007万円ですから、それを埋めて、なお2億円以上何かを買っている勘定です。何を買ったのかは短信に書かれていません。第1四半期はキャッシュ・フロー計算書を作っていないと注記にあるので、投資に使った金額としても見えません。
純利益は、特別利益に助けられていません
損益計算書の下のほうです。前年の第1四半期には固定資産売却益が1億159万円ありました。今回は投資有価証券売却益の2,300万円だけです。特別利益が7,800万円ほど減っているのに、純利益は37.5%増えています。つまり営業の段階で稼いだ分が、そのまま下まで届いた形です。ここは良い話として受け取っています。
会社はどう説明しているか
4ページ目の説明は、売上については子会社化と一時的な需要増の2つ、利益については「売上の増加に加え経営の効率化に努めた」となっています。
子会社化の分と、一時的な需要増は、そのまま受け取ります。セグメント表の数字と向きが合っているからです。留保をつけるのは「経営の効率化」で、塗料の利益率が倍になった説明としては、私には足りません。もう一つ、時計用品をどう売っていくのかは、短信には売上と利益の数字しかありませんでした。
通期予想に対して、どこまで来ています
営業利益の通期予想は10億円で、第1四半期で4億3,900万円まで来ました。4割強です。上期累計の予想は5億3,000万円ですから、7月から9月の3か月は9,100万円という置き方になります。
前年と並べると、この置き方の意味がはっきりします。表紙には上期予想の増減率が+66.0%と載っています。5億3,000万円を1.66で割り戻すと、前年の上期累計はおよそ3億1,900万円です。前年の第1四半期は2億3,400万円でしたから、引いて、前年の7月から9月はおよそ8,500万円だったことになります。
| 営業利益 | 第1四半期 | 7月〜9月 | 上期累計 |
|---|---|---|---|
| 前年 実績 | 2億3,400万円 | 約8,500万円 | 約3億1,900万円 |
| 今年 会社予想 | 4億3,900万円 | 約9,100万円 | 5億3,000万円 |
約の付いた数字は、表紙の増減率+66.0%から私が割り戻したものです。
つまり7月から9月は前年並み、という予想です。4月から6月に集まった需要は、次の3か月には残らない。会社が「一時的」と書いた言葉と、動かさなかった予想の数字が、同じ方向を指しています。残り9か月に必要な営業利益は、10億円から4億3,900万円を引いた分です。5億6,100万円で、これは前年の同じ9か月より4割多い水準です。下期に時計用品の分が乗る計算なのだろうと考えていますが、短信にその内訳はありません。
私はどう読んだか
私は「一時的」だと考えています。理由は、会社自身がそう書き、第1四半期で通期の4割を稼いだあとも予想を動かさなかったからです。塗料の利益率が倍になったのは、4月から6月に集まった需要が作った数字で、これが続く前提では私は考えていません。良い決算です。上がるかは知りません。
ただ、一時的ではない話も2つ残りました。有形固定資産に積まれた2億3,700万円と、売上の4分の1を占めて利益が1%に届かない時計用品です。どちらも次の短信で、同じ行を見に行きます。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260807/140120260730503777.pdf
有形固定資産の「その他」が3か月で2億3,700万円増えた中身は、読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


コメント