はじめに
日本タングステンは、名前のとおりタングステンという金属を加工する会社です。タングステンは熱にとても強い金属で、もともとは電球のフィラメントがこの会社の出発点でした。いまは、おむつなどの衛生用品を作る設備の刃、心臓カテーテル治療に使う細いワイヤー、自動車の電装部品を溶接する電極、データセンターのサーバーに入るハードディスクの部品など、目には見えないところで使われる部品を作っています。読者のみなさんが直接買うものはひとつもありませんが、赤ちゃんのおむつにも、病院の手術室にも、この会社の部品が通っています。
その原料のタングステンは、主な産出国が中国です。ここが、今回の決算を読むうえでの入口になります。
8月5日に出た、2027年3月期の第1四半期決算です。
この決算で何が起きたか
数字だけ見れば、文句のつけようがない四半期です。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,200 | 3,134 | +34.0% |
| 営業利益 | 632 | 205 | +207.5% |
| 経常利益 | 794 | 268 | +195.4% |
| 純利益 | 556 | 181 | +207.0% |
(単位:百万円)
売上が3割増え、利益は3倍。中間配当の予想も1株30円から60円へ引き上げられました。ここまでは、決算サイトの見出しに出る話です。
利益が3倍になった理由は、成長ではなかった
引っかかったのは、短信の4ページ目、会社自身の説明文です。
売上高増加に加え、原材料価格の急騰以前に確保した原材料を使用し売上原価が抑えられたこと等により、売上総利益が大幅な増益を計上しました。
つまり、安いうちに仕入れておいた材料を使ったから、原価が抑えられた。中国の輸出規制強化でタングステンの価格が急騰する前に確保した在庫が、この四半期の利益を作ったと、会社が自分で書いています。
決算説明会資料には営業利益の増減要因の図があり、そこでは「在庫増」が387百万円の押し上げ要因、「材料費増」が610百万円の押し下げ要因として並んでいます。これは説明会資料の数字で、短信の検算はしていませんが、材料費の逆風はすでに来ていて、それを別の要因が上回った、という絵になっています。
だとすると、安い材料はいつまでもあるわけではない。……ここが、この決算の分かれ目だ。
貸借対照表では、現金が減って、材料が積み上がっている
7ページ目の貸借対照表を見ると、この会社が何をしているかが数字に出ています。
| 項目 | 前期末 | 今回 |
|---|---|---|
| 現金及び預金 | 3,211 | 2,114 |
| 原材料及び貯蔵品 | 1,111 | 1,857 |
| 仕掛品 | 1,266 | 1,484 |
| 受取手形及び売掛金 | 3,168 | 3,741 |
(単位:百万円)
現金はこの3ヶ月で1,097百万円減りました。一方で原材料の在庫は、1,111百万円から1,857百万円へと大きく増えています。中国以外からの調達に「最大限努め」たと4ページ目にあるので、材料を買い込んでいるのだと思います。流通が細るなら先に確保する、という判断でしょう。
ただ、この短信には四半期のキャッシュ・フロー計算書が作成されていません(注記に明記があります)。だから、現金が減った経路を項目ごとに確かめることは、今回はできません。材料の買い込みと読むのが自然ですが、私の読み違いかもしれません。
もうひとつ、小さいけれど目についたのは、営業外収益の「スクラップ売却益」です。前年同期の17百万円から今回73百万円に増え、金額が大きくなったので今回から独立した項目として表示されるようになりました。原材料の価格が上がると、くず金属を売ったときの利益まで増える。経常利益が営業利益より162百万円大きい理由の一部が、ここにあります。
会社はどう説明しているか――据え置きの理由が正直
第1四半期でこれだけ出たのに、通期の予想は据え置きです。理由を短信の6ページ目から引くと、
中国の輸出規制強化の継続に伴う原材料価格の動向等が見通しにくく、収益性の度合いが見定めにくい状況であることから、現時点では据え置くこととし
とあります。第2四半期までの予想は上方修正し、通期は動かさない。強気にも弱気にも倒さず、「分からないものは分からない」と書いてある。私はこの説明を、そのまま受け取ってよいと思っています。安い在庫がいつ尽きるか、新しく買う材料がいくらになるか、会社にも見えていないのだと思います。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 15,000 | 28.0% |
| 営業利益 | 730 | 86.6% |
| 経常利益 | 1,010 | 78.6% |
| 純利益 | 720 | 77.2% |
(単位:百万円。この時期の目安は25%)
売上は4分の1と少しで順当。一方、営業利益は3ヶ月で通期予想の86.6%まで来ています。据え置かれた通期予想は730百万円で、そこから今回の632百万円を引き算します。残り9ヶ月分は98百万円。前年の同じ9ヶ月と比べて8割減る置き方です。これは私が引き算した数字で、会社が印字したものではありません。
さらに、会社が印字した数字どうしを並べても同じことが見えます。第2四半期累計の営業利益予想は1,500百万円、通期は730百万円。引き算すると、下半期は営業赤字の置き方になります。これも私の引き算ですが、元の2つの数字はどちらも短信の1ページ目にあります。会社は「今後は高騰した原材料の使用により売上原価の上昇を見込む」と書いており、この置き方はその文章と整合しています。
私はどう読んだか
この四半期の利益水準は続かない前提で読みます。理由は、増益の主因が「急騰前に確保した原材料」だと会社自身が書いていて、その在庫は使えば減るものだからです。据え置かれた通期予想の形も、会社が同じ前提に立っていることを示しています。
ただ、悪い決算だとは思っていません。需要そのものは、衛生用品も医療用ワイヤーも半導体向けも自動車向けも、会社の説明では軒並み増えています。材料の逆風の中で売上を3割伸ばしたのは供給対応の成果ですし、中間配当を倍にした判断には、少なくとも上期に対する会社の自信が乗っています。問題は需要ではなく、原価がどこで落ち着くか。そこだけが見えていない決算だと読みました。読み違いかもしれません。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260805/140120260803507071.pdf
現金及び預金が3ヶ月で1,097百万円減った経路は、キャッシュ・フロー計算書が作成されていないため読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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