はじめに
日本伸銅は、黄銅の棒や線を作っている会社です。黄銅というのは銅と亜鉛の合金で、水道の蛇口やバルブ、給湯器の部品など、住宅まわりの金具の中身によく使われています。完成品を作る会社ではなく、その手前の「削れば部品になる棒」を供給する側です。つまりこの会社の商売は、家を建てる人や水回りを直す人の、二つか三つ手前にあります。
もうひとつ、この会社を読むうえで避けて通れないのが、原材料が銅だということです。銅は国際相場商品で、値段が毎日動きます。仕入れる材料の値段が相場で動く会社の決算は、売上や利益の増減が「商売がうまくいったか」と「材料の相場がどう動いたか」の二つの成分でできています。今回の決算は、その二つを分けて読まないと、まったく違う話に見える決算でした。
この決算で何が起きたか
第1四半期の数字はこうです。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 10,339 | 7,090 | +45.8% |
| 営業利益 | 1,011 | 321 | +215.0% |
| 経常利益 | 490 | 369 | +32.5% |
| 純利益 | 335 | 253 | +32.0% |
(単位:百万円)
売上が4割半増えて、営業利益は3倍。1ページ目だけ見れば文句のない表です。ただ、営業利益が3倍なのに、経常利益は3割増にとどまっている。この段差が、この短信のいちばん読むべき場所でした。
引っかかった点
数量は3.1%しか増えていない
4ページ目に、販売数量が印字されています。5,679トン、前年同期比3.1%増。
売上は45.8%増なのに、モノの量は3.1%増。差の大部分は、銅の値段です。会社自身が同じページに書いています。主要原材料である銅の建値が、2026年6月3日に1トン233万円という、過去に例のない水準をつけた、と。国際商品である材料が高くなると、売値もそれに連動するので、同じ量を売っても売上は膨らみます。「全部門増収」の見出しの中身は、量ではなく値段でした。
もっとも、営業利益率は前年同期の4.5%から9.8%へ上がっています。相場高の局面で利幅を確保できているのは事実で、ここまで含めて営業段階は良い数字だと思います。
営業利益と経常利益の間で、528百万円が消えている
6ページ目の損益計算書です。営業外費用の合計が528百万円。内訳は、デリバティブ損失が360百万円、デリバティブ評価損が162百万円。
会社の説明では、これは銅相場の変動リスクをヘッジするためのデリバティブ取引です。前年の同じ四半期を見ると、同じデリバティブが今度は収益側に162百万円乗っています。つまりこの会社の経常利益は、毎四半期、銅相場とデリバティブの綱引きで数億円単位で振れる構造になっている。
……営業利益の3分の1以上が営業外で消えるヘッジは、ヘッジと呼んでいいのか。
いや、これは言い過ぎかもしれません。現物側で相場高の恩恵を受けて営業利益が膨らみ、ヘッジ側で損失が出るのは、仕組みとしては筋が通っています。両方合わせて経常利益が32.5%増なら、ヘッジは仕事をしたとも読めます。ただ、この会社の「営業利益」という数字を単体で眺めても意味が薄い、ということだけは言えます。
キャッシュ・フロー計算書が、無い
7ページ目の注記に、こう書いてあります。「当第1四半期累計期間に係る四半期キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません」。
四半期の短信では珍しいことではありません。制度上も問題ありません。ただ、私はいつもキャッシュ・フロー計算書まで読みに行くので、無いとなると貸借対照表から間接的に推し量るしかなくなります。
5ページ目を見ると、現金及び預金は246百万円から193百万円へ減っています。一方で短期借入金は2,610百万円から1,370百万円へ減っている。受取手形及び売掛金が404百万円、棚卸資産が233百万円増えて、支払手形及び買掛金も1,055百万円増えている。売上が4割半増えれば運転資金が膨らむのは当然で、危ない形には見えません。ただ、手元の現金193百万円は、3ヶ月で103億円を売る会社としてはかなり薄い。借入枠で回す前提の資金繰りなのだろうと想像しますが、CF計算書が無いので、営業活動で現金がいくら入ったのかは分かりません。
会社はどう説明しているか
会社の説明文は率直です。銅の建値が高い水準で推移したことで売上と営業利益が増え、ヘッジのデリバティブで損失が出たので経常利益の伸びは縮んだ、と。膨らんだ理由も縮んだ理由も、どちらも相場だと自分で書いています。増益を実力のように語っていない点は、私は好感を持ちました。
冒頭の世界経済の記述も変わっていて、米国のイラン攻撃とホルムズ海峡の封鎖、石油備蓄の放出まで書いてあります。銅の建値が過去にない水準を付けた背景として、会社が地政学を心配していることが伝わってきます。
通期予想に対して、どこまで来ているか
同じ日に通期予想を修正しています。修正後の予想に対する進み具合はこうです。
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 38,000 | 27.2% |
| 営業利益 | 2,000 | 50.5% |
| 経常利益 | 1,500 | 32.7% |
| 純利益 | 1,050 | 31.9% |
(単位:百万円。3ヶ月経過時点の目安は25%)
営業利益は、3ヶ月で通期予想の半分に来ています。裏返すと、会社は残り9ヶ月の営業利益を989百万円、前年の同じ9ヶ月から6割近く減る置き方で見ているということです。通期の営業利益予想が前期比25.8%減なのもこのためです。銅の建値が高い水準のまま続く前提を置かなかった、ということだと読みますが、修正を出したその日の数字がこの形なので、予想の精度そのものは今後の四半期で確かめるしかありません。
私はどう読んだか
私は「営業利益3倍」を、この会社の実力の変化としては読みませんでした。数量3.1%増という印字に寄せて読んでいます。理由は、売上の増分の大半が銅の建値で説明でき、会社自身もそう書いているからです。銅の建値が下を向く四半期が来れば、今回とは逆向きの決算が出る構造だと思います。読み違いかもしれません。利益率が4.5%から9.8%へ上がった部分に、相場以外の何かが混ざっている可能性は残ります。ただそれを確かめる材料は、この短信の中にはありませんでした。
出典:決算短信(会社発表)
https://www.nippon-shindo.co.jp/pdf/260807gs4.pdf
営業キャッシュ・フローがいくらだったのかは、CF計算書が作成されておらず読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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