上場企業の書類を、裏で作っている会社
上場企業が毎年出さなければならない書類を、作る側の会社です。有価証券報告書、株主総会の招集通知、株主に送る報告書などです。以前は刷る仕事が中心でしたが、いまはそうした書類を社内で作るためのシステムも売っています。決算の締めから株主総会までの、一年でいちばん忙しい時期に頼られます。
もう一つの柱は通訳と翻訳です。国際会議や企業の会議に通訳者を出し、文書を訳しています。
私の勤め先は上場していないので、この会社のお世話になったことはありません。ただ、いま赤ペンを入れている決算短信も、この会社の顧客が作っている種類の書類です。書類を作る会社の書類をめくる、少し妙な夜になりました。
売上は小さく、利益は大きく伸びた
9月29日に出た、2027年5月期の第1四半期決算です。対象は6月から8月の3か月です。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 95億1,200万円 | 90億8,600万円 | +4.7% |
| 営業利益 | 21億2,500万円 | 17億600万円 | +24.6% |
| 経常利益 | 22億1,900万円 | 17億8,300万円 | +24.5% |
| 純利益 | 14億4,600万円 | 11億9,300万円 | +21.1% |
売上が増えて、売上原価が減っていた
損益計算書まで進みました。
| 前年同期 | 今回 | |
|---|---|---|
| 売上高 | 90億8,602万円 | 95億1,256万円 |
| 売上原価 | 50億5,876万円 | 49億5,188万円 |
| 売上総利益 | 40億2,725万円 | 45億6,068万円 |
| 販売費及び一般管理費 | 23億2,119万円 | 24億3,479万円 |
| 営業利益 | 17億605万円 | 21億2,588万円 |
出典:短信の損益計算書。千円単位の表を万円に直したため、上の表と末尾が少し違います。
引っかかったのは売上原価です。売上が増えたのに、原価は1億円ほど減っていました。……普通は、逆だ。
粗利は前年同期の40億2,725万円から、今回は45億6,068万円になりました。差し引きで約5億3,300万円の増加です。売上の増加は約4億2,600万円なので、粗利のほうが多く増えました。販管費も約1億1,400万円増えましたが、営業利益の伸びはほぼこの粗利から来ています。
伸びたのは、紙を刷らない仕事だった
何が原価を下げたのかは、セグメント情報に出ていました。
| 製品・事業 | 前年同期 | 今回 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 金融商品取引法関連製品 | 28億8,847万円 | 35億1,096万円 | +21.6% |
| 会社法関連製品 | 18億9,604万円 | 20億7,799万円 | +9.6% |
| IR関連製品 | 15億8,245万円 | 15億662万円 | −4.8% |
| その他製品 | 5億701万円 | 4億2,184万円 | −16.8% |
| 通訳・翻訳事業 | 22億1,203万円 | 19億9,513万円 | −9.8% |
出典:短信のセグメント情報(金額は億と万の単位に直しています)
いちばん伸びたのは、有価証券報告書まわりの製品です。短信の4ページ目は、その理由を2つ挙げています。書類作成システム「WizLabo」の導入顧客が増えたこと。決算・開示の実務を請け負う仕事と、コンプライアンス支援の売上が増えたことです。減ったのは、株主に送る事業報告書と、適時開示を紙で株主へ届けるサービスでした。
書類の事業は売上が6億4,300万円増え、セグメント利益は5億3,000万円増えました。増えた売上の8割強が、そのまま利益に残った計算です。5億3,000万円を6億4,300万円で割った、私の計算です。
ここまでは短信に書いてある数字です。紙に刷って届ける仕事から、システムと請け負いの仕事への入れ替わりが、原価の減少になって出ている、と私は読みました。
この短信に、キャッシュ・フロー計算書が無かった
私はいつもキャッシュ・フロー計算書まで行きます。今回は短信の11ページ目に「四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません」とありました。第1四半期に作らない会社は珍しくありません。代わりに、貸借対照表の動きを前期末と並べました。
| 科目 | 前期末からの増減 |
|---|---|
| 現金及び預金 | +15億400万円 |
| 受取手形及び売掛金 | △22億8,200万円 |
| 仕掛品 | △4億6,400万円 |
| 買掛金 | △8億600万円 |
| 未払費用 | △12億6,900万円 |
| 剰余金の配当 | △7億7,400万円 |
出典:短信の財政状態の説明
配当を払い、未払いの費用も払ったうえで、現金は増えています。前期末の5月は、売上の多くなる第4四半期の終わりです。そこで立った代金が、この3か月で入ってきたと考えています。売上は立っているのに現金が入ってこない、という形ではありませんでした。
会社はどう説明しているか
書類の事業の説明は上で紹介したとおりで、私もそのまま受け取っています。
通訳・翻訳は、セグメント利益が半分になりました。短信の説明は、前年同期に多かった大型イベントが減ったこと、コロナ禍で増えた社内会議の通訳が減ったことの2つです。翻訳は案件の小型化を挙げています。
前者は前年の反動なので、いずれ比べる相手から消えます。後者は元に戻りにくい種類の減り方で、私はこちらを重く受け止めています。AI通訳は伸びていると書かれていますが、その金額は短信には載っていません。
短信の5ページ目には、売上の偏りの説明があります。書類の事業は顧客の決算期が3月に集中するため、第1四半期と第4四半期の売上が多くなります。6月から8月は一年の山です。この3か月の伸び方を、そのまま年間の勢いとして扱うのは早いと思います。
通期予想に対して、どこまで来ているか
表紙の通期予想は、7月8日に出したものから変わっていません。
| 通期予想 | 第1四半期 | 進み具合 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 342億円 | 95億1,200万円 | 約27.8% |
| 営業利益 | 49億円 | 21億2,500万円 | 約43.4% |
| 純利益 | 35億円 | 14億4,600万円 | 約41.3% |
約の付いた数字は、第1四半期を通期予想で割った私の計算です。
売上に季節の偏りがある会社なので、前年と並べます。表紙には通期の営業利益が前期比+10.9%と載っています。49億円を1.109で割ると、前期の営業利益はおよそ44億1,800万円です。前期の第1四半期の17億600万円は、その4割弱でした。
通期予想の49億円に対して、第1四半期で21億2,500万円まで来ています。残りの9か月に必要なのは、差し引きで27億7,500万円です。前期の同じ9か月は、通期のおよそ44億1,800万円から第1四半期の17億600万円を引いた残りです。これがおよそ27億1,200万円でした。残りが前年並みでも届く予想になっています。配当は年180円の予想で、前期の120円から増やす計画のままです。
私はどう読んだか
私は、この増益を季節の山ではなく、仕事の中身が入れ替わった結果だという見方をしています。理由は2つあります。売上より粗利のほうが多く増えたこと。伸びた製品と減った製品が、紙からシステムと請け負いへ、という同じ向きに並んでいることです。季節の山なら売上と原価が一緒に膨らむはずで、原価が減る説明にはなりません。
心配性なので、通訳・翻訳のほうは別に考えています。上がるかは知りません。
出典:決算短信(会社発表)

純利益の通期予想が前期比+3.5%にとどまり、営業利益ほど伸ばさない予想になっている理由は、短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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