はじめに
JX金属は、日立鉱山を源流に持つ非鉄金属の会社です。銅を掘り、製錬し、そこから先の加工品まで手がけています。いま会社が力を入れているのは川下のほう、つまり加工品です。半導体用スパッタリングターゲットという、半導体の内部に金属の膜を作るための材料や、スマートフォンの中で折り曲げて使う基板に貼る圧延銅箔。どちらも、みなさんが手に持っている機械の中に入っています。名前を聞いたことがなくても、製品を使ったことがない人はたぶんいない、そういう会社です。
その会社が8月6日に出した、2027年3月期の第1四半期決算短信を読みました。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 260,604 | 191,276 | +36.2% |
| 営業利益 | 81,446 | 29,558 | +175.5% |
| 税引前利益 | 79,644 | 28,459 | +179.9% |
| 純利益 | 53,070 | 18,865 | +181.3% |
(単位:百万円。この短信はIFRSなので経常利益の行はなく、税引前利益を置いています)
売上が4割近く増えて、営業利益は2.7倍。同じ日に通期予想の上方修正も出ています。1ページ目だけ見れば、文句のつけようがない数字です。
最初の表では分からなかったこと
営業利益の増え方の内訳
8ページ目の損益計算書で引っかかりました。
| 項目 | 今回 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 売上総利益 | 58,748 | 41,989 |
| 持分法による投資利益 | 32,854 | 13,643 |
| その他の収益 | 20,719 | 1,386 |
その他の収益が、1,386百万円から20,719百万円へ。15倍です。この正体は4ページ目に書いてあって、2026年4月に実施したSCM Minera Lumina Copper Chile株式の一部譲渡に伴う譲渡益です。チリの鉱山会社の株を一部手放した、その益がここに乗っています。
ここから先は私が引き算した数字ですが、営業利益の増加分はおよそ519億円です。その内訳を見ると、その他の収益の増加がおよそ193億円、持分法投資利益の増加がおよそ192億円。本業の稼ぎである売上総利益の増加は、およそ168億円です。つまり営業利益2.7倍のうち、3分の2ほどは譲渡益と持分法から来ています。株式の譲渡は、来年の同じ時期にもう一度起きる種類のものではありません。
ただし、これで悪い決算だという話にはなりません。12ページ目からのセグメント表を見ると、半導体材料も情報通信材料も、譲渡益とは関係なく増益です。半導体用スパッタリングターゲットの増販、圧延銅箔とチタン銅の増販と、理由も製品の名前で書かれています。本業も伸びている。ただ、見た目の2.7倍ほどには伸びていない。そういう構成です。
キャッシュ・フロー計算書が、無かった
私は決算を読むとき、キャッシュ・フロー計算書まで行くことにしています。今回、行った先にありませんでした。13ページ目の注記に「当第1四半期連結累計期間に係る要約四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成していません」と書いてあります。IFRSの第1四半期では珍しいことではないのですが、譲渡益が利益を押し上げた期こそ、現金が実際にどう動いたかを見たかった。……無いものは仕方がない。
代わりに貸借対照表を見ると、現金及び現金同等物は66,306百万円から218,978百万円へ増えています。ただしこれは稼いだ現金というより、後述の社債発行が効いているように読めます。
貸借対照表が、この3ヶ月で大きく動いている
損益計算書の裏で、財務のほうが騒がしい四半期でした。
| 項目 | 前期末 | 今回 |
|---|---|---|
| 社債及び借入金(非流動) | 178,274 | 404,067 |
| その他の金融負債(流動) | 7,123 | 198,237 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 48.3% | 38.5% |
転換社債型新株予約権付社債の発行で借金側が膨らみ、さらに自己株式の公開買付です。注記によれば、普通株式57,300,112株を194,877百万円で取得する公開買付が6月末時点で決済未了だったため、買う義務を負債に計上し、その分だけ資本を減らしている。決済は7月9日に完了したと書かれています。金額を合計すると、約1,949億円を自社株買いに使ったことになります。持分比率が10ポイント近く下がったのは、赤字を出したからではなく、この操作によるものです。
配当は前期の年間31円に対し、今期予想は20円。2026年5月11日に配当方針の変更を決議したと1ページ目に書いてあります。自社株買いに寄せた還元に変えた、と読むのが自然だと思いますが、方針変更の中身そのものは決算短信には書かれていません。
会社はどう説明しているか
会社の説明はこうです。円が期中平均で前年同期より14円安い1ドル159円だったこと、銅のLME価格が5月13日に史上最も高い1ポンド639セントを付け、期中平均でも前年同期より172セント高い604セントだったこと。そこにAIサーバやデータセンター向けの需要拡大が重なった。
この説明は受け取ってよいと思います。セグメントごとの増販理由が製品名で書かれていて、譲渡益についても隠さず主因として挙げている。ただ、為替と銅価は会社の実力ではなく環境です。環境が逆を向けば、同じ幅で逆に効きます。
通期予想に対して、どこまで来ているか
同じ日に通期予想を上方修正しています。
| 項目 | 前回予想 | 今回予想 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 930,000 | 1,025,000 | +10.2% |
| 営業利益 | 190,000 | 232,000 | +22.1% |
| 純利益 | 114,000 | 141,000 | +23.7% |
(単位:百万円)
私が割り算した数字ですが、修正後の営業利益232,000百万円に対して、この第1四半期で81,446百万円。3分の1を超えています。第1四半期の目安は4分の1ですから、上方修正した後の予想に対してもかなり前に出ている。ただ、そのうちの譲渡益はもう繰り返しません。残り9ヶ月は、譲渡益抜きの本業と、銅価と為替の前提――会社は1ポンド586セント、1ドル157円などを置いています――が守られるかどうかの勝負になります。前に出ているように見えて、実はそれほど余裕のある置き方ではないのかもしれません。
私はどう読んだか
「本業も良いが、2.7倍という見た目は割り引いて読む」に寄せています。理由は、増益の3分の2ほどが譲渡益と持分法という、営業利益の中にいながら本業の外にある項目から来ているからです。一方で、半導体材料と情報通信材料が実数で増益なのは事実で、ここを無視して「一時的な益で膨らんだだけ」と切るのも読み違いだと思います。心配性なので下側から書きましたが、下側だけの決算ではありません。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260806/140120260805510453.pdf
持分法による投資利益がなぜ2.4倍になったのか、その中身は決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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