はじめに
キオクシアホールディングスは、NAND型フラッシュメモリを作っている会社です。旧東芝メモリ。スマートフォンやPCの中で写真やアプリを保存している記憶部品、それから、データセンターのサーバーに積まれるSSDの中身がこれです。電源を切っても消えない記憶装置、と言えば伝わるでしょうか。
普段は意識しない部品です。ただ、生成AIに何かを聞くたびに、その裏側のどこかのデータセンターで、この種のメモリが読み書きされています。AIが賢くなるほど、覚えておくべきデータが増える。その置き場所を作っている会社です。
工場は米サンディスクと共同で運営しています。メモリ専業なので、この製品の値段が上がるか下がるかが、会社の業績にほぼそのまま出ます。今回の短信は、それが極端な形で出た決算でした。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,767,117 | 342,799 | +415.5% |
| 営業利益 | 1,270,017 | 44,899 | — |
| 税引前四半期利益 | 1,234,720 | 27,294 | — |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 842,165 | 18,284 | — |
(単位:百万円。IFRSなので経常利益はありません。利益の増減率は1,000%を超えるため短信でも「-」表記です)
売上が前年同期の5倍。営業利益にいたっては、増減率の欄が印字できない水準です。売上に対する営業利益の割合は71.9%。100円売って72円残る商売、部品メーカーの数字としては見たことがありません。
最初の表では分からなかったこと
売った代金は、まだ半分入っていない
これだけ利益が出たのなら、現金も同じだけ積み上がっているのか。10ページ目のあたり、キャッシュ・フロー計算書を見に行きました。
営業活動によるキャッシュ・フローは8,663億円。前年同期は611億円でしたから、現金もちゃんと入ってきています。ただ、その内訳に営業債権及びその他の債権の増加による支出4,721億円が立っています。貸借対照表でも、営業債権は6,606億円から1兆1,516億円へとほぼ倍になっていました。
売上が急に膨らむと、代金の回収が後から追いかける形になります。それ自体は自然なことです。……いや、それにしても増え方が急だ。税引前利益1兆2,347億円のうち、現金として手元に来たのが8,663億円。残りは「これから入ってくる予定」の状態です。回収が滞ればという心配は、心配性の私の読み違いかもしれません。ただ、次の四半期にこの債権がちゃんと現金に変わるかは、見ておきたい場所です。
入ってきた現金で、借金を一気に返した
財務活動によるキャッシュ・フローに、長期借入金の返済による支出4,332億円があります。短信には「借入金の繰上返済」と書いてあります。予定より前倒しで返した、ということです。
効果はもう数字に出ています。利息の支払額は、前年同期の327億円から58億円へ。親会社所有者帰属持分比率は37.9%から50.8%になりました。この会社は長く借入の重さが語られてきた会社ですが、この四半期で財務の景色がかなり変わっています。稼いだ現金の使い道として、まず借金を返す。堅い順番だと思います。
訴訟損失引当金366億円
営業利益の中に、訴訟損失引当金繰入額366億円が入っています。前四半期まではゼロだった項目です。短信には金額と、引当金が493億円増えたという記載があるだけで、何の訴訟なのかは書かれていません。利益の規模からすれば小さい数字ですが、性質の分からない引当金は覚えておくことにします。
通期予想が、無い
これが今回いちばん目を引いた点です。短信に通期の業績予想がありません。載っているのは、上期(第2四半期累計、4月〜9月)までの見通しだけです。下期については、短信には書かれていません。
会社は理由をこう書いています。「当社グループが属する半導体メモリ業界では事業環境が短期間に大きく変化する特徴等があることから、年度計画値及び当該達成状況に係る記載は省略しています」。
利益率71.9%の四半期を出した会社が、自分の口で「短期間に大きく変化する」と言っている。この2つを並べて読むのが、この短信の正しい読み方だと思います。
会社はどう説明しているか
好調の理由について会社は、生成AI用途を中心としたデータセンター向け顧客の需要が旺盛で、平均販売単価が大幅に上昇したこと、出荷量の増加、為替の改善を挙げています。アプリケーション別の売上を見ると、SSD&ストレージが前四半期の6,003億円から1兆1,747億円へ。四半期の売上増7,643億円のうち、5,744億円がここです。データセンター向けが伸びの中心だという説明と、数字は合っています。
ここは素直に受け取ります。ただし、単価の上昇で伸びた利益は、単価が動けば同じ速さで動きます。会社が通期予想を出さなかったのは、まさにそこを約束できないからでしょう。
通期予想に対して、どこまで来ているか
通期予想が無いので、進捗率は計算できません。会社が数字で示したのは、上期(第2四半期累計)までです。
| 項目 | 上期予想 | 前年同期比 | うち第1四半期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4,157,117 | +425.5% | 1,767,117 |
| 営業利益 | 3,160,017 | — | 1,270,017 |
| 親会社の所有者に帰属する中間利益 | 2,112,165 | — | 842,165 |
(単位:百万円)
上期予想4兆1,571億円のうち、第1四半期で1兆7,671億円。残りの2兆3,900億円が7月から9月の分ということになります。会社が四半期ごとの数字を出しているわけではないので、これは私が引き算した数字です。それでも、この四半期からさらに3割以上増えるところに上期を置いた、とは言えます。
会社が示したのはここまで。下期のことは何も書かれていない。それ自体が情報だと思って読みました。なお、同じ日の取締役会で、10月1日付で1株を3株にする株式分割も決議されています。
私はどう読んだか
数字が大きすぎて一時的な要因を疑いたくなる決算ですが、私はこの利益を本物寄りに読んでいます。理由は、営業キャッシュ・フローが8,663億円と、利益に現金の裏付けがあること。そしてその現金で借入を繰上返済するという、浮ついていない使い方をしていることです。
ただし、続くかは別の話です。会社自身が通期を約束していないものを、外から続くと決めつける理由はありません。上がるかは知りません。私が次の四半期に見るのは、膨らんだ営業債権が現金に変わったかどうかです。
出典:決算短信(会社発表)

訴訟損失引当金366億円が何の訴訟に対するものかは、短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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