はじめに
関東電化工業は化学メーカーです。名前だけ聞くと電力会社のようですが、作っているのはガスと粉です。半導体の製造工程では、回路を彫ったり不要な膜を落としたりするために特殊なガスを使います。三フッ化窒素や六フッ化タングステンといった、名前は覚えにくいけれど、これが無いと半導体工場のラインが止まる類のものです。もう一つの柱が電池材料で、六フッ化リン酸リチウムという、電気自動車の電池の電解液に溶かして使う材料を作っています。つまり、半導体と電池という、いま世の中で取り合いになっているものの、どちらにも部材を納めている会社です。ほかに、か性ソーダなどの基礎化学品、複写機の現像剤向けの鉄系材料、商事、プラント建設の部門もありますが、規模でいえば脇役です。
2026年8月10日に出た、2027年3月期の第1四半期決算です。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 19,774 | 15,143 | +30.6% |
| 営業利益 | 3,979 | 779 | +410.7% |
| 経常利益 | 4,573 | 743 | +515.5% |
| 純利益 | 3,235 | 531 | +509.3% |
(単位:百万円)
売上が3割増えて、利益が5倍。営業利益率は前年同期の5.1%から20.1%まで上がりました。売る量が増えた以上に、売る中身が変わった決算です。
最初の表では分からなかったこと
経常の5倍には、為替の追い風が乗っている
8ページの損益計算書を見ると、営業外収益に為替差益が437百万円立っています。前年同期は逆で、為替差損30百万円とデリバティブ評価損144百万円を営業外費用に計上していました。つまり前年は向かい風、今回は追い風。経常利益の「+515.5%」という派手な数字には、この振れが両側から効いています。
ただし、営業利益の段階ですでに5倍になっているので、為替は上乗せであって主役ではありません。ここは区別して読むべきところです。
現金が減り、借入と在庫が増えている
引っかかったのはこちらです。貸借対照表の動きを並べます。
| 項目 | 前期末 | 今回 |
|---|---|---|
| 現金及び預金 | 20,220 | 18,650 |
| 短期借入金 | 2,569 | 7,250 |
| 商品及び製品 | 6,590 | 9,197 |
| 仕掛品 | 7,666 | 8,806 |
| 原材料及び貯蔵品 | 6,921 | 9,808 |
(単位:百万円)
これだけ儲かった四半期に、現金は減っています。そして短期借入金が2,569百万円から7,250百万円へ増えました。3ヶ月で3倍近くです。在庫の3項目を私が足し算すると、3ヶ月で約6,600百万円の積み増しです。これは私が引き算・足し算した数字で、会社が印字したものではありません。
売掛金も増えています。売上が3割伸びれば売掛金が増えるのは当たり前で、在庫の積み増しも、これから売るものを作っているのだと読めば前向きです。ただ、なぜここまで積んだのかの理由は、決算短信には書かれていません。
キャッシュ・フロー計算書が、無い
そして11ページ。「当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません」とあります。四半期での作成は任意なので、ルール違反ではありません。ただ、私がいつも確かめに行く書類が、今回は最初から無い。利益は5倍なのに現金は減っている、その間で何が起きたのかを、営業・投資・財務に分けて確かめる手段が、この短信の中にはありません。
印字されているのは減価償却費だけで、1,882百万円から2,315百万円へ増えています。設備を動かし始めた会社の数字ではある。……でも、それしか分からない。
稼いでいるのは、ほぼ一つの部門
セグメント情報を見ると、精密化学品事業の売上が16,518百万円、セグメント利益が3,752百万円。全社の売上19,774百万円、営業利益3,979百万円のほとんどをこの一部門が出しています。ほかの4部門は、基礎化学品と鉄系が小幅な増益、商事が小幅な減益、設備は15百万円の営業損失です。良くも悪くも、この会社の決算は精密化学品の決算です。
会社はどう説明しているか
会社の説明文で目につくのは「価格修正効果」という言葉の多さです。半導体用ガスの三フッ化窒素は、価格修正効果はあったものの販売数量の減少により減収。六フッ化タングステンは、数量は減ったのに価格修正効果で増収。電池材料の六フッ化リン酸リチウムだけが、数量の増加と価格修正効果の両方で増収です。
つまり半導体用ガスは、量が増えたのではなく、値段を直したことで利益が出るようになった。原燃料価格は大幅に上昇したと会社自身が書いているので、その分を売り値に乗せられたということです。値上げが通る間は強い数字が出ますが、量の裏付けがあるのは電池材料のほうだ、という読み分けはしておきたいところです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 95,000 | 20.8% |
| 営業利益 | 11,300 | 35.2% |
| 経常利益 | 11,300 | 40.5% |
| 純利益 | 7,600 | 42.6% |
(単位:百万円)
3ヶ月で4分の1が目安のところ、売上はわずかに届かず、利益は3分の1から4割強まで来ています。機械に計算させると、残り9ヶ月の経常利益は前年の同じ9ヶ月に比べて14.2%増でいい置き方になっている。第1四半期に5倍だった会社の続きとしては、かなり控えめです。為替の追い風が続く前提を置いていないのだと読めますが、その内訳は決算短信には書かれていません。
なお、この通期予想は2026年5月15日に公表したものから修正されています。ただ、上方向なのか下方向なのか、修正前の数字がいくらだったのかは、この短信には印字されていません。「業績予想の修正に関するお知らせ」を参照とありますが、私が今回読んだのは短信だけです。
私はどう読んだか
営業利益の段階で5倍が出ている以上、本業の改善が主で、為替は上乗せ。そう寄せて読んでいます。理由は、利益の出どころがセグメント利益として精密化学品にはっきり印字されていて、営業外の振れを除いても説明がつくからです。
ただし、現金の裏は取れていません。キャッシュ・フロー計算書が無い四半期に、現金が減って短期借入金が増えて在庫が積み上がっている。増産の仕込みなら次の四半期に売上として出てくるはずで、出てこなければ話が変わります。私の読み違いかもしれませんが、次に確かめる場所はそこだと思っています。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260810/140120260807515811.pdf
5月15日公表の業績予想からの修正が、どの項目をどちらへ動かしたものかは、短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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