はじめに
朝起きてスマートフォンでニュースの見出しを眺め、友だちの連絡に返事をし、帰りに寄る店をなんとなく探し、レジでスマホをかざして払う。この一連の動きを、ほとんど全部ひとつの会社のサービスで済ませている人は、日本にかなりの数いるはずです。
商売の形は大きく3つです。企業や店から広告料をもらう。通販やフリマの取引から手数料をもらう。決済と金融で稼ぐ。会社はそれぞれをメディア事業、コマース事業、戦略事業と呼んでいます。
11月5日に出た中間決算を読みました。
この決算で何が起きたか
IFRS基準なので、経常利益という項目はありません。損益計算書に並んでいる順番のまま書きます。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆1,176億6,800万円 | 9,953億6,700万円 | +12.3% |
| 営業利益 | 1,988億6,200万円 | 2,145億2,600万円 | -7.3% |
| 税引前中間利益 | 1,758億6,600万円 | 1,907億300万円 | -7.8% |
| 親会社の所有者に帰属する中間利益 | 929億900万円 | 1,383億1,300万円 | -32.8% |
売上収益は1割以上増えて、会社の説明によれば中間期として過去最高です。営業利益率は17.8%でした。前年同期は21.6%で、4ポイントほど落ちています。これは私の引き算です。
2割増えた利益と、減った利益が、同じ半年に並んでいる
同じ表紙に、調整後EBITDAという数字も載っています。3,065億5,800万円で、前年同期比22.0%増。すぐ上の営業利益は7.3%減です。同じ半年で片方が2割増えて片方が減る。ここで引っかかりました。
計算のしかたは2ページ目の注記にあります。営業利益に減価償却費及び償却費を足して、EBITDA調整項目を足し引きしたものです。調整項目は、固定資産除却損、減損損失、株式報酬費用、企業結合に伴う再測定益、一部のファンドが持つ株式の売却損益など、非経常かつ現金の動かないものを外すと定義されています。
減価償却費及び償却費はキャッシュ・フロー計算書から取りました。営業利益にこれを足した額と、調整後EBITDAとの差が調整項目にあたります。
| 今回 | 前年同期 | |
|---|---|---|
| 営業利益 | 1,988億6,200万円 | 2,145億2,600万円 |
| 減価償却費及び償却費 | 959億800万円 | 847億8,900万円 |
| 2つの合計(約) | 約2,947億7,000万円 | 約2,993億1,500万円 |
| 調整後EBITDA | 3,065億5,800万円 | 2,512億7,500万円 |
| 差=EBITDA調整項目(約) | 約117億8,800万円 | 約△480億4,000万円 |
約の付いた数字は、短信のこの3つから私が足し引きしたものです。
調整項目は前年のマイナス480億4,000万円から今回のプラス117億8,800万円へ振れました。差し引き598億2,800万円。これが、調整後EBITDAが2割増えて営業利益が減った差の正体です。
前年の調整項目が大きなマイナスだったということは、前年の営業利益の中に、調整後EBITDAからは外される益が入っていたことになります。再測定益か株式の売却益か、どちらなのかは決算短信に書かれていません。前年同期の営業利益は24.2%増でした。今回の7.3%減は、その高い土台と比べた数字だ、と私は受け取りました。
純利益を3割減らしたのは、法人所得税でした
この落差は、税引前より下で起きています。損益計算書の法人所得税の行は、今回が488億5,900万円の費用。前年同期は△123億3,600万円で、費用がマイナスです。
だから前年は税引前1,907億300万円に対して、中間利益のほうが2,030億3,900万円と大きくなっていました。……いや、税金が利益を増やしているのは変だ。
費用を計上した今回と、逆に戻っていた前年とでは、差は611億9,500万円になります。純利益が3割減った主な理由はこれで、商売の中身ではありません。前年同期の法人所得税がマイナスになった事情は、決算短信にも、会社が同じ日に出した決算説明会資料にも書かれていませんでした。
メディア事業の利益を増やしたのは、生成AI関連費用の減少
セグメント別で売上収益がいちばん伸び悩んだのは、メディア事業の2.2%増です。
5ページ目に中身が書いてあります。LINE公式アカウントを使うアカウント広告が12.5%増、LYPプレミアムなどのユーザー課金他が13.0%増。一方で検索広告は自社サイト向けもパートナーサイト向けも減少、ディスプレイ広告は運用型も予約型も減少。伸びているのはLINE側で、ヤフー側の広告が縮んでいます。
それでもメディア事業の調整後EBITDAは12.1%増です。会社はその理由を、増収に加えて人件費と生成AI関連費用を中心に販管費が減ったからだ、と書いています。
説明会資料ではAIエージェントの新サービスが何ページも割いて紹介されているのに、利益を押し上げたのはAI関連の費用を減らしたことだった。この並びが引っかかりました。
会社はどう説明しているか
会社は売上増の理由に、前期に子会社にした3社の寄与と、PayPay連結、アカウント広告、LYPプレミアム、Yahoo!ショッピング、ZOZOグループを挙げています。費用も、子会社化で販売促進費、支払手数料、人件費が増えたと書いています。
連結の販売費及び一般管理費は6,134億3,400万円で20.4%増。売上収益の伸びより大きい。買収した会社で売上を増やし、そのぶん費用も増えた、という説明として素直に読めます。
ただし会社がこの説明を付けているのは、どれも調整後EBITDAに対してです。営業利益が7.3%減った理由を正面から書いた文章は、決算短信の中には見つけられませんでした。
通期予想は3つしか出ていない
通期予想は上方修正されました。修正の前後を並べます。
| 項目 | 前回予想 | 修正後 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆2,400億円 | 2兆3,300億円 |
| 調整後EBITDA | 5,850億円 | 6,400億円 |
| 調整後EPS | 30.0円 | 35.0円 |
配当予想も11円から12円へ引き上げ、株主優待も新設されています。
短信の予想欄にあるのは、この3項目だけです。営業利益も純利益も、通期の数字が入っていません。IFRSでは任意なので様式違反ではありませんが、前年を下回った2つの利益について、着地を示す数字が無いことになります。
上期の実績を、修正後の予想で割ってみます。
| 上期実績 | 通期予想 | 進捗率(約) | 下期に必要な額(約) | 前年下期(約) | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆1,176億6,800万円 | 2兆3,300億円 | 約48% | 約1兆2,123億3,200万円 | 約1兆410億円 |
| 調整後EBITDA | 3,065億5,800万円 | 6,400億円 | 約48% | 約3,334億4,200万円 | 約2,454億600万円 |
約の付いた数字は私の計算です。進捗率は上期実績を通期予想で割り、下期に必要な額は通期予想から上期実績を引きました。前年下期は、前期通期実績(売上収益2兆363億6,600万円、調整後EBITDA4,966億8,100万円)から前年同期を引いたものです。
下期に必要な額を前年下期と比べると、売上収益は1割半ほど、調整後EBITDAは3割半ほど増やす計算になります。上期の実績は12.3%増と22.0%増でしたから、会社は下期のほうが高い伸びになる前提で予想を組んでいます。
私はどう読んだか
商売そのものは伸びていると考えています。戦略事業の売上収益は31.4%増。PayPay連結の取扱高は11.1兆円で21.3%増、PayPay銀行の貸出金残高は1兆3,977億円で37.0%増。子会社化の効果を含むとはいえ、ここは疑っていません。
気になるのは数字の見せ方です。上方修正された3つは、全部「調整後」の付いた指標です。その調整で外されている金額は、この半年で598億2,800万円ぶん前年から振れていました。
償却費を足し戻した数字が良くなることと、営業利益が良くなることは別です。前者だけで通期を語る形になっていることを、私は重く見ています。心配性なので、下振れのほうを先に考えます。この決算は、商売の伸びよりも調整の効き方のほうが大きく出た半年だと考えています。
有利子負債は2兆3,226億1,500万円で18.4%増。親会社所有者帰属持分比率は26.8%から25.7%へ下がりました。ただしこの会社は銀行事業を抱えているので、借入と預金の増減をそのまま財務の悪化と読むわけにはいきません。
営業活動によるキャッシュ・フローは1,718億5,100万円で、前年同期の2,311億1,100万円を下回りました。銀行事業の貸付金が2,221億3,700万円増えたことが効いています。金融を自前で持つと、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書の読み方がふつうの事業会社と変わってきます。
出典:決算短信(会社発表)
https://www.lycorp.co.jp/ja/ir/library/result/main/01/teaserItems2/03/linkList/0/link/pdfFile.pdf
前年同期の法人所得税がマイナス123億3,600万円になった事情は、読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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