将棋のアプリ「将棋ウォーズ」を作っている会社です。スマートフォンで見知らぬ相手と一局指して、あとからAIに自分の手を採点してもらう。あのアプリの裏側で将棋を指しているAIが、この会社の出発点です。
いまは、その技術を企業に向けて売っています。社内の規程や過去の資料を読み込ませておいて、社員が質問すると答えてくれるAIの助手です。もう一つ、子会社が情報セキュリティの見張りをしています。担当者を置けない中堅・中小企業の代わりに、ネットワークへの侵入を監視する仕事です。
この3本で食べている会社の、2026年9月11日に出た第1四半期決算です。5月から7月の3か月分にあたります。
営業利益は5割増、親会社の純利益は黒字に戻りました
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 16億4,341万円 | 15億1,417万円 | +8.5% |
| 営業利益 | 1億8,011万円 | 1億1,791万円 | +52.8% |
| 経常利益 | 1億3,821万円 | 9,453万円 | +46.2% |
| 親会社株主に帰属する純利益 | 3,267万円 | △1,149万円 | ― |
前年の同じ時期に赤字だった親会社の純利益は、黒字に戻りました。ここまでは表紙の数字です。
表紙には、営業利益の列が一つ多い
この短信の表紙は、少し読みにくい作りをしています。売上高の右隣が営業利益ではなく、「のれん償却前営業利益」という列です。慣れた目で左から追うと、営業利益を2億2,337万円、純利益を1億3,821万円と読んでしまいます。私も一度そう取りました。
……いや、純利益が1億3,821万円のわけがない。表紙の純利益の欄には32と書いてあるはずだ。
損益計算書で確かめると、営業利益は1億8,011万円でした。これにのれん償却額4,326万円を足すと2億2,337万円になり、表紙の左端の列と合います。悪意のある作りではありませんが、決算サイトの自動集計がこの列を拾っていたら、営業利益が2割強も大きく出ます。読むときは列の見出しから、と改めて思いました。
四半期純利益8,696万円のうち、親会社に残ったのは3,267万円
引っかかったのはここです。四半期純利益8,696万円のうち、親会社株主に帰属するのは3,267万円です。差額の5,429万円は、連結した子会社の株を外部の株主が持っていた分です。
前年はもっと極端でした。グループ全体では黒字なのに、親会社だけ見ると赤字です。稼いでいたのは子会社で、その利益の大半が外の株主に配られていた、と損益計算書は読めます。
| 今回 | 前年同期 | |
|---|---|---|
| 四半期純利益 | 8,696万円 | 5,576万円 |
| 非支配株主に帰属 | 5,429万円 | 6,726万円 |
| 親会社株主に帰属 | 3,267万円 | △1,149万円 |
この構図が、今期から変わります。6月30日付で、セキュリティ子会社のバリオセキュアを株式交換により完全子会社にしたからです。貸借対照表の非支配株主持分は8億73万円から1億2,735万円へ減りました。代わりに資本剰余金が7億4,357万円増えています。外の株主に、自社の株を渡して子会社の株を引き取った形です。
つまり今回の3か月分は、6月末までの2か月は旧来の配分、7月の1か月だけが新しい配分です。第2四半期からは、セキュリティ子会社の利益がまるごと親会社に残ることになります。残った1億2,735万円は、5月1日に連結した経理BPOの子会社の分かもしれません。短信に内訳はありません。
営業外費用に、暗号資産の評価損が乗っています
もう一つ、小さいですが目についたものがあります。営業外費用に暗号資産評価損1,170万円が入っていて、前年同期にはこの科目がありません。営業外費用の合計は2,382万円から4,209万円へ増えており、増えた分の半分以上がこれです。
将棋とAIとセキュリティの会社が、なぜ暗号資産を持っているのか。その理由も、いくらの規模で持っているのかも、決算短信には書かれていません。営業利益が5割増えた四半期に、経常利益の伸びが4割半ばにとどまった原因の一つがここです。
会社はどう説明しているか
短信の4ページ目と5ページ目で、会社は増収の理由を2つ挙げています。将棋への注目度が続いて「将棋ウォーズ」の有料会員が過去最高水準に達したこと。そして企業向けの受託開発が前年同期比で倍以上に伸びたことです。AI助手「HEROZ ASK」の売上も前四半期比で3割近く増えて、契約顧客が約470社になったとあります。
利益の側は、売上原価が3%減ったことを理由にしています。労務費がグループ全体で前年並みに収まったためだそうです。一方で販管費は17%近く増えました。2社を子会社化したM&A関連費用と、経理BPO子会社の人件費が乗ったためと書かれています。
ここに一つ留保を付けます。受託開発が倍になったと書かれていますが、金額は載っていません。セグメント表のAIX事業の売上は、増えた額が1億2,682万円で、率にして16%の増加です。中身の一つが倍増して全体が16%増なら、将棋の売上が事業の大半を占めている、と私は考えています。倍増は本物でも、土台はまだ小さい。
| AIX事業 | AI Security事業 | 全社費用 | |
|---|---|---|---|
| 売上高(今回) | 9億3,469万円 | 7億871万円 | ― |
| 売上高(前年同期) | 8億787万円 | 7億630万円 | ― |
| セグメント利益(今回) | 2億3,436万円 | 2億7,238万円 | △3億2,663万円 |
| セグメント利益(前年同期) | 1億4,989万円 | 2億3,375万円 | △2億6,574万円 |
セグメント表の数字です。利益の額ではセキュリティ子会社のほうが大きく、伸び幅ではAIX事業のほうが大きい。全社費用が6,000万円ほど増えているのは、M&A関連費用でしょう。
通期予想に対して、どこまで来ているか
会社は6月12日に出した通期予想を据え置いています。
| 通期予想 | 第1四半期実績 | 進捗率 | 残り9か月に必要な額 | |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 68億円 | 16億4,341万円 | 約24% | 約51億5,700万円 |
| 営業利益 | 8億円 | 1億8,011万円 | 約23% | 約6億1,989万円 |
| 経常利益 | 7億円 | 1億3,821万円 | 約20% | 約5億6,179万円 |
| 親会社純利益 | 3億円 | 3,267万円 | 約11% | 約2億6,733万円 |
進捗率と残りの額は、私の計算です。売上と営業利益は4分の1弱で、この時期としては普通の進み方です。純利益だけが1割ですが、配分の変化を待つ数字なので、遅れとは受け取っていません。
気になるのは、通期予想そのものの形です。経常利益は前期比で7割増を見込みながら、親会社の純利益は2割減の3億円と置かれています。減少率を1から引いた0.798で3億円を割り戻すと、前期の純利益はおよそ3億7,600万円です。前期の第1四半期は1,149万円の赤字でした。通期の3億7,600万円にその分を足すと、前期は残りの9か月で3億9,000万円近くを稼いだことになります。今期はそれを、経常利益が7割増えるのに、下回るとしている。
なぜそう置いたのかは、短信には書かれていません。表紙に「決算補足説明資料作成の有無:有」とあるので、そちらに理由があるのでしょうが、私はまだ読んでいません。前期に何か一時的な利益があったのか、税金の見積もりなのか。私は前者を先に疑っています。理由は、経常利益が7割増える年に、税金の見積もりだけで純利益を2割減らすには、前期の税負担がよほど軽くないと計算が合わないからです。
私はどう読んだか
私は、本業の利益の伸びは本物だという見方をしています。理由は、利益の増加が営業外や特別利益からではなく、損益計算書の上の段から出ているからです。売上原価が減って、売上総利益が1億5,000万円以上増えています。3か月で消える種類のものではありません。
ただし純利益の段は、まだ信用していません。理由は、利益の配分が3か月の途中で変わったばかりだからです。次の四半期で、四半期純利益と親会社帰属の差がどこまで縮むか。それを見てから、通期の3億円という数字を測ろうと思います。上がるかは知りません。
のれん18億5,636万円が総資産84億4,233万円の2割強を占めています。利益剰余金は3億8,908万円の累損のままで、配当は今期も0円です。心配性なので、この3つは頭の片隅に置いておきます。
出典:決算短信(会社発表)
経常利益が7割増える年に純利益が2割減る、その理由は決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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