はじめに
住友電気工業は、電線の会社です。電線といっても、家の壁の中のコードだけではありません。発電所から街まで電気を運ぶ電力ケーブル、クルマの中を血管のように走るワイヤーハーネス、データセンター同士をつなぐ光ファイバー。「電気と情報を、束ねて通す」ものをほぼ全部作っている会社だと思ってください。
普段の生活でこの会社の製品を目にすることは、まずありません。でも、クルマに乗った時点で、たぶんこの会社のハーネスが足元を通っています。スマホで動画を見た時点で、どこかの光配線を通っています。そういう会社です。
その住友電工が、7月31日に第1四半期の決算短信を出しました。数字は派手です。ただ、派手な数字の内訳を見に行ったら、増えた場所と稼いだ場所が食い違っていました。今日はその話です。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,330,591 | 1,148,436 | +15.9% |
| 営業利益 | 97,059 | 60,301 | +61.0% |
| 経常利益 | 103,039 | 61,837 | +66.6% |
| 純利益 | 66,414 | 35,119 | +89.1% |
(単位:百万円)
売上が1割半増えて、利益は6割増。あわせて中間と通期の予想も引き上げています。1ページ目だけ見れば、文句のつけようがない決算です。
増収132,204百万円で、減益561百万円
引っかかったのは、10ページ目のセグメント表です。
この会社でいちばん大きいのは自動車関連事業で、売上802,803百万円。全体の6割です。その自動車が、前年同期から132,204百万円も増収して、営業利益は561百万円の減益でした。
売上が1,300億円以上増えて、利益は減った。……いや、これはどういうことだ。
短信の4ページ目に、会社自身の説明があります。ワイヤーハーネスや防振ゴムの需要は堅調、円安と銅価格上昇で売上が膨らんだ。一方で利益のほうは「中東情勢の影響による原材料価格上昇のほか、銅価格上昇の影響もあり」減益、と書いてあります。銅の価格が上がると、電線の会社は売値も上がるので売上は膨らみますが、材料代も上がります。売上の増え方ほど、儲けは増えない。今回はむしろ減った、ということです。
では全体の営業利益を6割も押し上げたのは誰か。セグメント表を前年同期と並べるとこうなります。
| セグメント | 今回の営業利益 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 環境エネルギー | 15,265 | 13,622 |
| 情報通信 | 27,246 | 8,131 |
| 自動車 | 26,026 | 26,587 |
| エレクトロニクス | 11,720 | 6,289 |
| 産業素材他 | 17,047 | 5,625 |
(単位:百万円)
情報通信が19,115百万円の増益、産業素材他が11,422百万円の増益。この2つで全体の増益分の大半を説明できます。情報通信は、生成AI市場の拡大でデータセンター向けの光配線機器や光デバイスの需要が増えたと会社が書いています。産業素材他は、タングステンの需給がひっ迫するなかで超硬製品の受注が増えたと。
つまりこの決算、「自動車の会社が儲けた」のではなく、「自動車以外が稼いだ」決算です。1ページ目の表からは、これは読めません。
キャッシュ・フロー計算書は、この短信には無い
私は決算短信を読むとき、キャッシュ・フロー計算書まで行くことにしています。ところがこの短信の注記に、第1四半期のキャッシュ・フロー計算書は作成していない、と書いてあります。第1四半期の短信では珍しいことではないのですが、現金の動きを直接は確かめられない、ということです。
なので代わりに、貸借対照表を読みました。前期末と比べて動いた項目を並べます。
| 項目 | 今回(6月末) | 前期末(3月末) |
|---|---|---|
| 棚卸資産 | 1,139,936 | 1,018,148 |
| 短期借入金 | 328,448 | 210,726 |
| 投資有価証券 | 848,873 | 713,033 |
(単位:百万円)
在庫が3ヶ月で12万百万円ほど積み上がり、短期借入金が5割以上増えています。会社は4ページ目で、債権の回収は進んだ一方で棚卸資産や有形固定資産が増えた、負債は主に借入金の増加、と説明しています。売上が伸びている局面で在庫と借入が増えるのは自然な形ではありますが、現金の出入りそのものは、この短信では確かめられませんでした。
純利益+89.1%は、少し割り引いて読む
もうひとつ。純利益が9割近く増えていますが、損益計算書を下まで読むと、営業利益の伸び以上に膨らんだ理由が2つ見えます。持分法による投資利益が3,151百万円から8,876百万円へ増えたこと。そして、非支配株主に帰属する四半期純利益が5,818百万円から2,592百万円へ減り、その分が親会社株主側に寄ったこと。どちらも本業の外側の話です。営業利益の+61.0%が実力で、純利益の+89.1%はそれに上乗せが付いた数字、と読んでおきます。
会社はどう説明しているか
5ページ目で会社は、各セグメントの需要が堅調で、円安と銅価格上昇の影響もあり、中東情勢に起因する売上減少やコスト上昇を吸収して前回想定を上回った、と書いて、中間と通期の予想を引き上げています。
需要が堅調という部分は、情報通信と産業素材のセグメント数字がそのまま裏付けているので、受け取ります。ただ、増益要因として円安と銅価格を並べている以上、この6割増益のうちいくらかは為替と銅の水準に乗った分です。そこが逆を向いたときにどれだけ残るのかは、短信からは分かりません。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 前回予想 | 今回修正予想 | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 5,300,000 | 5,400,000 | 5,110,171 |
| 営業利益 | 425,000 | 450,000 | 418,173 |
| 純利益 | 320,000 | 340,000 | 369,508 |
(単位:百万円、通期)
営業利益は、私が割り算した数字ですが、修正後の通期予想に対して2割強まで来ています。例年の目安が4分の1なので、上方修正した直後としてはやや控えめな置き方です。
そして、ここがこの短信でいちばん引っかかった箇所です。上方修正したのに、通期の純利益予想340,000百万円は、前期実績369,508百万円を下回る置き方のままです。差は8%あります。営業利益は前期比増を見込みながら、純利益だけ前期を下回る。その理由は、決算短信には書かれていません。前期の純利益に何か特別な要因があったのかもしれませんが、この短信の中からは確かめられませんでした。
私はどう読んだか
私は、良い決算だが手放しではない、という側に寄せて読んでいます。情報通信と産業素材の増益は、会社の説明と数字が噛み合っていて、実需の話だと思います。一方で、売上の6割を占める自動車は増収しながら減益で、全体の増益には円安と銅価格という自分では動かせない要素が混ざっている。心配性なので、伸びた場所より、いちばん大きい場所が儲かっていないほうが先に目に入りました。読み違いかもしれません。自動車の減益561百万円は、802,803百万円の売上に対しては誤差の範囲だ、という読み方もできます。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260731/140120260730503574.pdf
通期の純利益予想が前期実績を下回る置き方になっている理由は、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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