はじめに
日本トムソンは、ベアリングの会社です。ブランド名は「IKO」。針状ころ軸受という、細い針のようなころを並べた軸受と、直動案内機器という、機械の中で部品をまっすぐ正確に滑らせるためのレールのような部品を作っています。
どこで使われているかというと、いちばん大きいのは半導体製造装置です。半導体を作る機械は、髪の毛よりはるかに細かい精度でものを動かす必要があって、その「正確に動かす」部分をこの会社の部品が担っています。ほかにも工作機械、医療機器、ロボット。完成品としては誰も目にしないけれど、精密に動く機械の中には大抵入っている、そういう部品です。
2026年8月7日に出た、2027年3月期の第1四半期決算です。1ページ目の数字がかなり派手だったので、最後まで読みました。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 19,847 | 14,938 | +32.9% |
| 営業利益 | 2,793 | 731 | +281.9% |
| 経常利益 | 3,164 | 768 | +311.8% |
| 純利益 | 2,440 | 710 | +243.7% |
(単位:百万円)
売上が3割増えて、利益は4倍近く。増減率だけ見ると出来すぎに見えます。ただ、前年同期の営業利益率が4.9%と低かったので、そこからの跳ね返りが大きく出ている、という面はあります。今回の営業利益率は14.1%です。
売上より先に、注文が積み上がっている
私がこの短信でいちばん引っかかったのは、利益ではなく受注です。
短信の4ページ目、会社の説明文の中に、軸受等ならびに諸機械部品の受注高は32,277百万円、前年同期比112.3%増、と書いてあります。
この四半期の売上高が19,847百万円です。売った分より、新しく受けた注文のほうがずっと多い。売上の増え方が3割なのに、注文の増え方は2倍を超えています。生産高も15,536百万円で3割増と書いてありますが、注文の入り方に作る速さが追いついていません。
受注は売上の先を歩きます。この数字が本物なら、この四半期の派手な増減率は結果ではなく入口です。ただし、この受注急増がどの需要業界から来ているのか、一時的な大口が混じっていないのかは、短信の文章からは読み取れませんでした。
短信にキャッシュ・フロー計算書が無かった。ので、補足資料まで行った
短信の注記に、第1四半期のキャッシュ・フロー計算書は作成していない、と書いてあります。第1四半期では珍しくない扱いですが、私はここが見えないと落ち着きません。売掛金(受取手形及び売掛金)が3ヶ月で17,167百万円から19,714百万円へ増えているからです。その一方で、現金及び預金は25,002百万円から23,117百万円へ減っています。利益は4倍で、現金は減っている。……これだけ見ると、嫌な形だ。
会社が同じ日に出した決算補足資料には、キャッシュ・フロー計算書が載っていました。ここからは説明会資料側の数字です。第1四半期の営業活動によるキャッシュ・フローは3,311百万円のプラス。現金が減った主因は財務側で、社債の償還に5,000百万円を使っています。棚卸資産も1,409百万円分、現金に戻る方向に動いています。
つまり、稼いだ現金で借金の一種を返したから手元の現金が減った、という形でした。売掛金の増加は売上の増加と一緒に見れば不自然な水準ではありません。嫌な形に見えたのは私の早とちりで、短信だけでは確かめられなかったものが、補足資料には書いてありました。
増減率ほどには、きれいな話ばかりでもない
割り引いて数えるべきものも書いておきます。
経常利益の+311.8%には、為替の往復が効いています。損益計算書を見ると、今回は営業外収益に為替差益174百万円、前年同期は逆に営業外費用に為替差損176百万円が立っています。前年と今年で為替が反対を向いただけで、経常段階の絵は本業と関係なく変わります。営業利益の+281.9%のほうが、この会社の実力に近い数字だと私は思います。
もう1つ。純資産は3ヶ月で4,067百万円増えましたが、貸借対照表を見ると、そのうち2,306百万円はその他有価証券評価差額金の増加です。持っている株の値上がりで、稼いだ利益ではありません。自己資本比率68.3%という数字は立派ですが、中身にはこれが含まれています。
会社はどう説明しているか
短信の4ページ目で、会社はAI関連投資の拡大等を背景に設備投資需要は堅調、と書いています。地域別の説明も、国内は半導体製造装置や実装機向け、北米はロボットや半導体製造装置向け、中国は半導体関連需要の増加、と、どの地域もほぼ半導体の話です。
利益が跳ねた理由については、増収・増産効果等により、という一文だけです。工場は、作る量が増えるほど1個あたりの固定費が薄まって利益率が上がる商売なので、説明として不自然ではありません。補足資料の営業利益増減分析にも、売上高影響と売上原価の改善が増益の大半という内訳が出ています(これも説明会資料側の数字です)。私はこの説明を、ほぼそのまま受け取っています。
なお、通期予想は5月11日に出した数字から、この日付で修正されています。会社自身が期初の見立てを上に置き直した、ということです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 80,000 | 24.8% |
| 営業利益 | 11,500 | 24.3% |
| 経常利益 | 11,700 | 27.0% |
| 純利益 | 9,500 | 25.7% |
(単位:百万円。3ヶ月経過時点の目安は25%)
どれも4分の1前後で、目安どおりに見えます。ただしこの予想は発表当日に修正されたばかりの数字です。実績を見てから置き直した予想に対して進捗がきれいに4分の1なのは、当たり前といえば当たり前で、この進捗率から読み取れることはあまりありません。むしろ見るべきは、受注32,277百万円という残高の入り方と、通期売上80,000百万円という置き方の間に、まだ余裕がありそうに見えることのほうです。読み違いかもしれませんが。
私はどう読んだか
私は良いほうに寄せて読んでいます。理由は、利益の増減率ではなく、受注が売上の2倍近い水準で入っていることと、その裏で現金の流れが補足資料で確認できたことです。増減率の派手さは前年の低さの裏返しなので割り引きますが、注文の積み上がりは割り引く理由が見つかりませんでした。
心配性なので一応書いておくと、受注は取り消されることがあります。半導体の設備投資は波が荒い業界で、この会社自身、2023年度は売上が2割落ちています。2倍の受注がそのまま2倍の売上になると決まったわけではありません。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260807/140120260805510617.pdf
受注高が前年同期の2倍を超えた、その注文がどの需要業界から来ているのかは、短信からも、渡された範囲の補足資料からも読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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