はじめに
アシックスは、ランニングシューズの会社です。マラソン大会のスタート地点に立つと、足元の何割かはこの会社の靴だ、という種類の会社で、日本より欧米での存在感のほうが大きいくらいです。真面目に走る人のための靴だけでなく、街で履くためのスニーカーも作っていて、こちらはオニツカタイガーという別の名前で売られています。虎の縞のような線が入った、あのレトロな靴です。観光で日本に来た人がお土産に買っていく靴、と言ったほうが通じるかもしれません。
つまりこの会社の客は二種類います。タイムを縮めたい人と、格好いい靴が欲しい人。この決算は、その両方が同時に伸びた決算でした。そして私が引っかかったのは、伸びた話のほうではありません。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 534,483 | 402,798 | +32.7% |
| 営業利益 | 120,486 | 81,132 | +48.5% |
| 経常利益 | 116,598 | 78,626 | +48.3% |
| 純利益 | 82,171 | 53,606 | +53.3% |
(単位:百万円)
売上が3割増え、利益は5割前後増えました。半年で売上5,000億円を超えたのは初めてだと会社が書いています。あわせて通期予想を上方修正し、年間配当も44円に増やしました。1ページ目だけ見れば、文句のつけようがありません。
最初の表では分からなかったこと
特別損失に「転身支援等費用」6,717百万円
損益計算書の特別損失の欄に、転身支援等費用 6,717百万円という行があります。ほかに割増退職金、退職給付制度終了損という行も並んでいて、特別損失は合計8,079百万円。前年同期は200百万円でした。
引っかかったのはここです。短信の説明文は、テニスのイベントの話も、新宿のフラッグシップストアの話も、サステナビリティの表彰の話も書いています。それなのに、この67億円が何の費用なのかは、短信のどこにも書いていません。「転身支援」という言葉からは人が会社を離れる場面が浮かびますし、6月に発表されたオニツカタイガーの分社化と時期は重なりますが、短信はつなげて書いていないので、私もつなげません。……67億円は、黙って置いておくには大きい数字だと思うのだが。
3割増のうち、いくらかは円安
売上高+32.7%の隣に、会社自身が「為替影響除く+22.0%」と小さく書いています。欧州の+46.4%も、為替を除くと+29.7%。ユーロの換算レートが1年で162円台から184円台に動いているので、海外の売上が円に直すときに膨らんでいます。それでも為替を除いて2割増ですから、伸びていないという話ではありません。ただ、見出しの数字と実力の数字の間には、この差があります。
売掛金は膨らみ、在庫は減った
キャッシュ・フロー計算書まで行くと、売上債権の増加が43,049百万円ありました。貸借対照表でも受取手形及び売掛金が82,956から128,368へ増えています。売った分の現金がまだ入ってきていない、ということです。営業キャッシュ・フローは58,829百万円で、税金等調整前の利益111,666百万円に対して半分程度でした。
ここで悪い癖が出そうになりましたが、隣の行を見ると、棚卸資産は8,446百万円の減少です。売上が3割伸びているのに在庫は増えていない。売れずに積み上がっているのではなく、売れて出ていくほうが速い、という形に読めます。売掛金の増え方は売上の増え方と方向が合っているので、私はこれを異常とまでは見ませんでした。読み違えかもしれません。次の期に売掛金がちゃんと現金に変わったか、確かめるところです。
会社はどう説明しているか
会社は上方修正の理由を「上期の好調な業績と力強い市場モメンタムを踏まえ」と書いています。全カテゴリー・全地域で増収増益、という説明もそのとおり短信の表で確かめられます。街履きのスニーカー(スポーツスタイル)は売上が8割増、利益は倍増。ここは説明をそのまま受け取っていいと思います。数字が説明を裏切っていないからです。
受け取れなかったのは、先に書いたとおり、特別損失のほうです。良かった話は丁寧に書き、67億円の費用には触れない。嘘ではありませんが、全部でもありません。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,050,000 | 50.9% |
| 営業利益 | 195,000 | 61.8% |
| 純利益 | 120,000 | 68.5% |
(単位:百万円。修正後の予想)
半年でこの進み方は、上方修正した後の予想としても余裕があります。機械に計算させた数字では、残り6ヶ月の純利益は37,829百万円でよく、これは前年の下期より16%少ない置き方です。上期に5割増益だった会社の下期予想としては、ずいぶん慎重です。上期に特別損失を8,079百万円計上済みなのに下期をここまで抑える理由は、短信には書かれていません。単に固めに置いただけかもしれません。
私はどう読んだか
私は良いほうに寄せて読んでいます。理由は、伸びの中身です。為替を除いても2割増で、在庫は増えておらず、値引きで売った形跡もない(売上総利益率はむしろ上がっています)。私は心配性なので売掛金の増え方から見に行きましたが、そこも売上と方向が合っていました。
ただし、転身支援等費用の67億円が何なのかを確かめるまでは、この会社の「全部が好調」という絵をそのまま額に入れる気にはなれません。
出典:決算短信(会社発表)
転身支援等費用6,717百万円が、誰の、何のための費用なのかは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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