はじめに
太洋基礎工業は、建物の下の、あとで見えなくなる部分を作る会社です。柱の一つは、地中連続壁に代表される特殊土木工事です。地下に深い構造物を作るとき、掘る前に土の中へ壁を築いておかないと、周りの土が崩れてきます。その壁を先に作るのがこの仕事で、注文の出し手は主に官公庁です。
もう一つの柱が、住宅の地盤改良です。家を建てる前に、柔らかい地面へ杭を打ったり土を固めたりして、家の重さに耐える地面にしておく工事です。お客は大手の住宅メーカーで、そこから家を買う人は、この工事があったことをたぶん知りません。完成した家の下に隠れてしまうからです。
このほかに建築、環境関連、機械の製造販売、再生可能エネルギーの事業があります。どれも出来上がったあとに目に触れない仕事が多い。その見えない部分で、この半年に何が起きていたかを追いました。
この決算で何が起きたか
9月10日に出た中間決算です。売上は少し減って、利益は2割増えました。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 73億4,600万円 | 75億円 | △2.1% |
| 営業利益 | 4億2,500万円 | 3億4,500万円 | +23.4% |
| 経常利益 | 4億7,700万円 | 3億9,000万円 | +22.3% |
| 純利益 | 3億2,100万円 | 2億7,200万円 | +17.9% |
減収増益です。売上が減っているのに利益が増えた理由を探しに行くことになりますが、決算短信の1ページ目には理由が書かれていません。
増えた利益の出どころは、建築の赤字が消えたこと
7ページ目のセグメント表に答えがありました。営業利益は3億4,531万円から4億2,595万円へ増えています。増えた額は約8,060万円で、これは私の引き算です。その増え方を事業ごとに分けると、増えたのはほとんど建築でした。
| セグメント利益 | 前年同期 | 今回 |
|---|---|---|
| 特殊土木工事等 | 2億8,382万円 | 2億5,437万円 |
| 住宅関連工事 | 7,121万円 | 8,049万円 |
| 環境関連工事 | 3,402万円 | 3,938万円 |
| 建築 | △6,149万円 | 3,420万円 |
建築は前年に6,149万円の赤字で、今回は3,420万円の黒字です。差し引き約9,570万円の改善で、全体の増分8,060万円を上回ります。つまり建築を除いた事業は、合わせると利益が減っていることになります。
減った側の中心が、いちばん大きい特殊土木です。売上は35億4,162万円から39億2,378万円へ1割増えました。それなのに利益は約2,900万円減っています。売上が増えて利益が減る組み合わせは、引っかかります。
内訳では、官公庁向けが24億9,376万円から20億5,780万円へ減っています。民間向けは10億4,785万円から18億6,597万円へ、8割近く増えました。客先が入れ替わって、利益率が薄くなった。ここまでが短信の数字から言えることです。民間の案件がもともと薄利なのか、たまたま採算の悪い工事が重なったのかは、この短信には書かれていません。
工事損失引当金が、半年で4倍になっていた
5ページ目の貸借対照表で、もう一つ引っかかったものがあります。工事損失引当金です。前期末の3,502万円が、7月末には1億5,159万円になっていました。半年で約1億1,700万円積み増したことになります。
この引当金は、いま手がけている工事のうち、完成までに損が出そうなものについて、その損を先に費用にしておくものです。積み増した分は原価に入るので、営業利益はそれを差し引いたうえでの4億2,500万円です。……そう考えると、引当を積んでもなお2割増えた、とも受け取れます。
ただ、どの工事で、なぜ損が出る見込みになったのかは、決算短信には書かれていません。気になるのは建築です。8ページ目の受注残高で、建築は24億3,939万円から35億3,568万円へ4割以上増え、受注残全体の半分を占めるまでになりました。赤字から抜けたばかりの事業に、これだけの工事が残っています。引当金の増加と結びつけたくなりますが、それは私の推測で、短信にその線はありません。
現金が4億円減って、何に変わったか
この短信にはキャッシュ・フロー計算書がありません。中間の非連結決算では省けるので、それ自体は珍しくない。それでも現金及び預金は39億5,190万円から35億4,793万円へ減っています。減った額は約4億円です。減った先は、貸借対照表で増えた科目から追うしかありません。
| 増えた科目 | 前期末 | 7月末 |
|---|---|---|
| 契約資産 | 25億3,468万円 | 28億4,717万円 |
| 販売用不動産 | 2億8,390万円 | 5億5,940万円 |
| 投資有価証券 | 19億3,223万円 | 24億2,371万円 |
| 建設仮勘定 | 1億4,745万円 | 3億51万円 |
契約資産は、工事は進んだがまだ請求できていない分です。約3億1,000万円増えていますが、建設業では期の途中で膨らみやすい科目で、これだけなら私は騒ぎません。
目を引くのは販売用不動産と投資有価証券です。販売用不動産は倍近くになりました。投資有価証券は約4億9,000万円増えていますが、全部が買い足しではありません。純資産のその他有価証券評価差額金が約1億2,600万円、繰延税金負債が約9,450万円増えています。持っている株が値上がりすると、税金分を除いた額が前者に、税金分が後者に入るので、足した約2億2,000万円が値上がり分です。残りの約2億7,000万円が、買い足した分ということになります。この段落は全部、私の引き算です。
地盤の会社が、売るための不動産を増やし、株を買い足しながら、現金を減らしている。これが本業の準備なのか、余った現金の置き場なのかは、決算短信からは分かりませんでした。
会社はどう説明しているか
説明していません。この決算短信には、経営成績についての会社の文章がありません。目次にある項目は中間財務諸表と、生産・受注・販売の状況だけです。表紙には決算補足説明資料も決算説明会も「無」とあります。減収の理由も、特殊土木の利益減も、引当金の積み増しも、会社の言葉としては一つも出てきません。
数字だけを置いて、あとは読む側に任せる短信です。私はこの型に慣れているほうですが、引当金が4倍になった半期に一言もないのは、少し寂しい。
通期予想に対して、どこまで来ているか
通期予想は据え置きです。表紙の数字から中間実績を引くと、残り6か月に必要な額はこうなります。
| 通期予想 | 中間実績 | 残り6か月に必要な額 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 147億円 | 73億4,600万円 | 約73億5,400万円 |
| 営業利益 | 5億8,800万円 | 4億2,500万円 | 約1億6,300万円 |
| 純利益 | 4億7,500万円 | 3億2,100万円 | 約1億5,400万円 |
約の付いた数字は、通期予想から中間実績を引いた私の引き算です。
営業利益は7割を超えるところまで来ています。残り半年に要る1億6,300万円は、前年の下期より2割ほど少ない額です。売上は前年の下期より5%ほど多く要るのに、利益は2割減で足りる置き方をしています。上期で稼いだ分が、下期の何かで削られると見込んでいるはずです。
それが何かは短信に書かれていません。ただ候補はあります。受注高が全体で1割強減り、特殊土木では4分の1減っていること。そして、さきほどの引当金です。
私はどう読んだか
増益の中身が建築の黒字転換だという点は、良い話として受け取っています。前年に赤字だった事業が黒字に戻り、受注残も積み上がっているからです。
それでも私は、この決算には用心しています。理由は、3つのことが同じ方向を向いているからです。柱の特殊土木で売上が増えて利益が減ったこと。その説明が無いこと。会社側が引当金を4倍に積んだうえで、下期を減益に置いていること。数字は何も言いませんが、置き方が、ここは気をつけろと言っているように思えます。
出典:決算短信(会社発表)
工事損失引当金を積んだのが、どの事業のどの工事なのかは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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