キーエンスは、工場の生産ラインで使うセンサーと計測機器の会社です。ベルトの上を流れてくる製品に印字がきちんと入っているか、部品の寸法が決まった範囲に収まっているか、袋の中に異物が混ざっていないか。人の目の代わりにそれを見分けて、外れたものをはじく装置を作っています。
買うのは自動車や食品、半導体、電子部品などの工場です。新しいラインを立てるとき、古い設備を入れ替えるときに、一緒に入れます。ですから、世の中の工場が設備にお金を使っている時期には売れ、財布を閉じている時期には売れません。景気の体温計のような会社だと私は受け取っています。
この会社の決算短信を読むのは初めてです。表紙から順に見ていきます。
この決算で何が起きたか
7月28日に出た、2027年3月期の第1四半期です。会計期間は3月21日から6月20日までの3か月で、少し変わった区切りの会社です。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,466億2,100万円 | 2,610億7,600万円 | +32.8% |
| 営業利益 | 1,870億7,600万円 | 1,293億100万円 | +44.7% |
| 経常利益 | 1,967億9,300万円 | 1,315億3,200万円 | +49.6% |
| 純利益 | 1,391億3,300万円 | 921億1,600万円 | +51.0% |
売上が3割増え、利益は5割増えました。前年の同じ時期は売上が5.6%増、純利益が1.5%減でしたから、1年で景色が変わっています。営業利益率は前年同期の49.5%から54.0%へ。売上の半分以上が営業利益として残る会社です。
増えた営業利益のうち、円安が運んだ分
最初に引っかかったのは、この増え方の中に為替がどれだけ入っているか、でした。短信には為替の影響額は書かれていません。会社が短信とは別に出している決算説明会資料に、4月から6月の為替影響額として、売上高で約261億円、営業利益で約189億円という数字があります。
| 今回の増加額 | うち為替の影響(説明会資料) | 差し引いた残り | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 855億4,500万円 | 約261億円 | 約594億円 |
| 営業利益 | 577億7,500万円 | 約189億円 | 約389億円 |
増加額は、短信の今回と前年同期の差です。右端は、そこから為替の影響を引いた私の引き算です。
営業利益の増えた分577億7,500万円のうち、約189億円は円安の分です。3分の1にあたります。ただ、それを引いても約389億円増えています。この約389億円を前年同期の1,293億100万円で割ると、3割増えたことになります。円安を差し引いても、本業は3割伸びていた、というのがこの表から言えることです。
説明会資料には、現地通貨ベースの地域別の伸び率も出ています。国内が2割増、海外が2割4分増、アジアは3割4分増です。為替を除いた売上の伸び約594億円を前年の2,610億7,600万円で割ると2割強で、地域別の数字と大きくずれません。伸びは全地域で、円の外でも起きていたことになります。
原価が、売上の半分の速さでしか増えていない
もう一つ、損益計算書の2行目に目が止まりました。売上の増え方と、売上原価の増え方が釣り合っていないのです。
| 今回 | 前年同期 | 増減率 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,466億2,100万円 | 2,610億7,600万円 | +32.8% |
| 売上原価 | 518億6,600万円 | 454億1,200万円 | 約+14.2% |
| 売上総利益 | 2,947億5,500万円 | 2,156億6,400万円 | 約+36.7% |
| 販売費及び一般管理費 | 1,076億7,900万円 | 863億6,300万円 | 約+24.7% |
約の付いた増減率は、短信の今回と前年同期から私が割り算したものです。
売上が3割増えるあいだに、原価は1割半しか増えていません。売上総利益率にすると、前年同期の82.6%から85.0%へ上がっています。説明会資料にも同じ数字が載っています。
原価が売上ほど増えなかった理由は、短信には書かれていません。海外の売上は現地の通貨で立ち、それが円安で膨らみます。原価の多くが円で発生しているなら、売上だけが伸びて原価は伸びない形になります。粗利率の上昇のかなりの部分は円安が見せている姿だ、と私は読みました。製品を高く売れるようになった分がどれだけあるかは、この短信からは切り分けられません。
経常利益が営業利益より速く増えた理由
経常利益の増え方が営業利益を上回っていますが、これは営業外の欄を見れば理由が書いてあります。
| 営業外の主な項目 | 今回 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 受取利息 | 60億9,100万円 | 30億8,900万円 |
| 持分法による投資利益 | 12億9,500万円 | 11億2,100万円 |
| 為替差益 | 22億4,300万円 | なし |
| 為替差損 | なし | 20億7,000万円 |
受取利息が1年で倍になっています。加えて、前年は為替差損だったものが今回は為替差益に振れました。営業外収益の合計は43億8,300万円から97億9,800万円へ。経常利益の伸びが営業利益より5ポイントほど高いのは、この2つで説明が付きます。ここは金利と為替の話で、センサーの商売の話ではありません。
現金が減って、投資有価証券が増えている
私はいつも最後にキャッシュ・フロー計算書を読みますが、この会社は第1四半期にはキャッシュ・フロー計算書を作成していません。短信の6ページにそう書かれています。載っているのは減価償却費46億7,800万円だけです。
代わりに貸借対照表を見ます。現金及び預金は5,969億7,600万円から5,647億5,100万円へ減りました。3か月で322億円ほどの減少です。有価証券も減っています。一方で投資有価証券は839億7,300万円増えて、1兆5,982億7,700万円になりました。短信の説明文も、総資産が増えた理由をこの投資有価証券の増加だとしています。
つまり現金が減ったのは商売で出ていったからではなく、短期の置き場から長期の置き場へ動かしたから、と受け取りました。負債側では未払法人税等が423億8,500万円減っていて、これは期末にまとめて払った法人税でしょう。負債合計は1,761億5,000万円、自己資本比率は95.3%です。……いや、これは製造業というより、運用会社の貸借対照表に近い。
棚卸資産も852億7,300万円から1,010億7,300万円へ、2割近く増えています。売上が3割増えている最中なので、それ自体は珍しいことではありません。ここは心配していません。
会社はどう説明しているか
短信の説明文は、製造業を中心に設備投資が続き、各地域で堅調に推移した、と述べています。北中南米は幅広い業界で堅調、アジアは半導体・電気精密業界を中心に成長、欧州は持ち直し、国内も設備投資が回復基調、という並びです。
ただ、前年同期の5.6%増から今回の32.8%増へ、なぜここまで跳ねたのかは、短信にも説明会資料にも書かれていません。並んでいる言葉は「堅調」「持ち直し」「回復基調」で、3割増を説明する温度の言葉ではないと感じました。説明会資料には前四半期比の数字もあり、売上は前の四半期から3.6%増です。前年の同じ時期が低かった分、前年比が大きく見えている面もあるのだと受け取っています。
通期予想に対して、どこまで来ているか
この会社は通期の業績予想を出していません。短信の表紙に、売上や利益の予想の欄そのものが無く、進み具合を測る物差しが無い形です。
示しているのは配当予想だけで、年間550円、前年から据え置きです。第1四半期だけの1株利益が573.69円ですから、3か月の利益で1年分の配当を上回っています。
私はどう読んだか
この決算を、円安が3分の1、本業が3分の2、と私は読みました。理由は、営業利益の増加額から説明会資料の為替影響を引いても3割の増益が残り、それが現地通貨ベースの地域別の伸びとも合うからです。設備投資が世界で戻っていること自体は、この数字から疑っていません。
それでも心配性の私が頭に置くのは為替です。説明会資料には為替感応度も載っています。ドルが1円動くと、通期の営業利益が約11億円動くとあります。人民元なら0.1円で約10億円です。今回の四半期は159円のドルと23.2円の人民元で計算されています。ここが逆に動いたとき、粗利率85%のどこまでが残るのか。それは次の四半期の損益計算書で確かめます。上がるかは知りません。
出典:決算短信(会社発表)
https://www.keyence.co.jp/pdf/EarningsRelease_202607_ja.pdf
前年同期の5.6%増が、どの四半期からどんな理由で3割増へ切り替わったのかは、短信からも説明会資料からも読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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