巴川コーポレーション(3878)2027年3月期 第1四半期決算分析――先に受け取った分が大きい、と読みました

巴川コーポレーション(3878)2027年3月期 第1四半期決算分析――先に受け取った分が大きい、と読みました 決算を読む

はじめに

巴川コーポレーションは、静岡に本社を置く紙とフィルムの会社です。祖業は製紙ですが、いま売上の柱になっているのは、複写機やレーザープリンターの中で紙に文字を焼き付ける粉、トナーです。事務機メーカーがこの粉を買って、自社の機械に詰めて売ります。私たちがコピーを取るたびに、この会社の粉が紙の上で溶けているわけです。

もう一つの柱は、半導体を基板に貼り付けるときに使うテープや、ディスプレイの表面に貼る光学フィルムです。こちらは半導体メーカーやパネルメーカーが買います。ほかにも、特殊な抄紙の技術で作る不織布のシート、銀行の通帳や磁気と ICを一枚に載せたカードといった、偽造されては困る印刷物も手がけています。

つまり「紙を薄く均一に漉く」技術を、粉やフィルムや不織布に広げてきた会社です。私は製造業の財務にいるので、こういう地味な素材屋の決算は、つい丁寧に読んでしまいます。

この決算で何が起きたか

2026年8月7日に出た第1四半期の決算短信です。売上は2割近く増え、営業利益は2.4倍になりました。

今回前年同期増減率
売上高101億700万円85億2,600万円+18.5%
営業利益8億7,500万円3億6,900万円+136.8%
経常利益8億9,300万円4億5,500万円+96.3%
純利益5億9,300万円3億300万円+95.8%

売上に対する営業利益の割合は、前年の4.3%から8.7%へ倍になっています。数字だけなら、文句のつけようがない四半期です。

前倒し発注が、売上を押し上げていました

引っかかったのは、短信4ページ目の会社の説明文です。増収の理由の最初に「中東情勢の不透明感などから、半導体・ディスプレイ関連事業やトナー事業において顧客の前倒し発注があった」と書いてあります。

前倒し発注とは、客が来月に予定していた注文を、今月のうちに済ませてしまうことです。中東情勢が不透明なあいだに、手元へ品物を確保しておく動きです。会社の側から見れば、売上が今の四半期に集まり、あとの四半期から抜けます。合計は変わりません。ずれるだけです。

その2事業の売上を、地域別の内訳で並べてみます。

事業今回前年同期
トナー事業35億8,300万円29億3,600万円
うち中国(香港含む)16億5,400万円9億200万円
うち欧州8億6,100万円10億900万円
半導体・ディスプレイ関連事業23億4,000万円18億1,200万円

トナーの中国向けが、1年で7億円以上増えて、ほぼ倍です。一方で欧州向けは減っています。中東を通る航路に近い側の客が、前もって買い込んでいる。……そう見えて仕方がない。

値上げの分は、消えない分です

ただし、前倒しだけの四半期でもありません。会社は「引き続き全社をあげて価格転嫁を進めた」とも書いています。損益計算書を見ると、売上原価は前年の64億6,000万円から75億300万円へ増えています。ただ売上の伸びのほうが大きく、売上総利益は20億6,500万円から26億300万円へ増えました。販管費はほぼ横ばいです。

粗利が5億円以上増えたうちのどこまでが値上げで、どこまでが前倒しによる数量増なのかは、決算短信には分けて書かれていません。ただ、5つの報告セグメントが全部で増益になっていて、前倒しに触れていない機能性シートやセキュリティメディアでも利益が伸びています。機能性シートは前年の1,100万円の損失が、1億3,700万円の利益に変わりました。値上げは、面で効いています。

利益の一部は、本業の外から来ています

経常利益と純利益の間も、少し覗いておきます。特別利益に受取保険金7,400万円が載っています。前年同期にはありませんでした。何の保険金なのかは、決算短信には書かれていません。営業外では、前年に3,000万円あった持分法投資利益が、今回は500万円の損失に変わりました。関連会社が赤字に転じたということです。

大きな数字ではありません。ただ、純利益2.9億円の増加のうち、保険金7,400万円は来期の同じ時期には戻ってこない種類のものです。

キャッシュ・フロー計算書は、この短信にありません

私が毎回開く10ページ目には、今回キャッシュ・フロー計算書がありませんでした。第1四半期は作成していない、と注記にあります。仕方がないので、貸借対照表から現金の動きを想像します。

現金及び預金は、3月末に51億400万円でした。6月末には61億4,700万円で、3か月で10億円以上増えています。ところが同じ期間に、支払手形及び買掛金が7億7,400万円、短期借入金が4億700万円、それぞれ増えています。売掛金と原材料も増えました。

これは私の引き算です。仕入代金の支払いを待ってもらった分が7億7,400万円、短期で借り増した分が4億700万円です。足すと11億円を超え、増えた現金10億円より多くなります。前倒しの注文に応えるために材料を買い増し、その支払いが先に延び、手元に現金が積み上がって見えている。利益が現金になったのか、支払いが後ろにずれただけなのかは、CF計算書がないので分かりません。

会社はどう説明しているか

5ページ目で、会社は第2四半期以降について自分でこう書いています。前倒し発注に伴う反動減が見込まれること。原燃料価格の高騰によるコストアップが、製品の払出しを通じて顕在化すること。この2つを悪い材料として挙げ、価格転嫁と生産性改善で対応する、と続けています。

「製品の払出しを通じて」という一節が、財務の人間としては気になります。高い材料で作った製品はまず在庫になり、売れたときに原価として損益計算書に出てきます。6月末の原材料は3月末から3億円近く増えました。高く買った材料が、これから順に原価になっていく。そこまで分かったうえで書いています。この説明文は、そのまま受け取ってよいと考えています。

通期予想に対して、どこまで来ているか

会社は7月23日に通期予想を上方修正しており、この短信ではその数字を据え置いています。据え置いた予想と第1四半期を並べると、こうなります。

通期予想第1四半期実績残り9か月に必要な額
売上高386億円101億700万円約284億9,300万円
営業利益16億円8億7,500万円約7億2,500万円
純利益7億円5億9,300万円約1億700万円

約の付いた数字は、通期予想から第1四半期を引いた私の引き算です。

営業利益は、上方修正したあとの予想でも、3か月で半分以上を稼いでしまいました。残る9か月に必要なのは7億2,500万円で、これは前年の同じ9か月より4割以上少ない額です。純利益にいたっては、あと1億700万円でよい。9か月で1億円という置き方は、会社が第2四半期以降の反動減を相当に重く見込んでいる、ということです。

私はどう読んだか

見方は2つあります。値上げが面で効いて収益の体質が変わった、という見方。中東情勢で客が慌てて買い込んだ分を、先に受け取っただけ、という見方。

私は後者だと考えています。理由は、会社自身が反動減を書いたうえで、残り9か月の利益を前年より4割減らして置いているからです。上方修正した直後に、自分の予想をわざわざ低く見積もる動機はありません。それでも低いということは、第1四半期の中に、あとで抜ける分がそれだけ含まれているのだと受け取りました。

ただ、機能性シートの黒字転換と、5事業そろっての増益は、前倒しでは説明がつきません。値上げが通った分は、反動が来ても残ります。上がるかは知りません。心配性なので、次の四半期は中国向けトナーの売上から先に開きます。

出典:決算短信(会社発表)

https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260807/140120260804509062.pdf

特別利益の受取保険金7,400万円が、何に対して支払われたものなのかは読み取れませんでした。


調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。

全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。

買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。

本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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