はじめに
トレックス・セミコンダクターは電源ICの会社です。工場を持たないファブレスで、設計した半導体の製造は外に出します。傘下にはパワー半導体の受託製造会社も抱えています。
電源ICというのは、機器の中で電気の電圧を整える部品です。バッテリーから来る電気をそのまま使える回路はほとんど無いので、車でも産業機械でもモジュール機器でも、どこかに必ずこの種のICが入っています。目立たないけれど、無いと動かない。この会社はその「電源」の部分だけを、小型化・省電力化の方向でずっとやってきた会社です。買うのは完成品メーカーで、機器の設計段階で採用が決まると、その機器が売れている間ずっと載り続けます。
私はこの会社の短信を読むのは今回が初めてです。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,564 | 5,865 | +11.9% |
| 営業利益 | 885 | 165 | +436.3% |
| 経常利益 | 1,113 | 64 | — |
| 純利益 | 911 | 35 | — |
(単位:百万円)
売上は1割増、営業利益は5倍を超えました。前年同期がかなり低かったとはいえ、目を引く数字です。ただ、この営業利益をそのまま受け取ってはいけないことが、9ページ目に書いてありました。
最初の表では分からなかったこと
営業利益885百万円のうち、281百万円は見積り変更です
引っかかったのはここです。9ページ目の注記に、棚卸資産の簿価切下げの見積り方法を今期変更した、と書いてあります。過剰在庫の評価を、将来の販売可能性に基づく方法から、過去の販売実績に基づく方法に変えた。この変更で売上原価が281,016千円減り、営業利益以下の各段階利益が同額増えています。
この2億81百万円は、会社自身が「一時的なもの」と4ページ目に明記しています。
営業利益885百万円から281百万円を引くと約604百万円。これは私が引き算した数字ですが、それでも前年同期の165百万円からは大きく増えています。かさ上げはある、しかし本業の回復もある。両方が同時に起きた四半期です。
経常利益の伸びは、営業の外から来ています
経常利益は64百万円から1,113百万円へ増えました。損益計算書を見ると、受取利息及び配当金が30百万円から191百万円へ増え、前年に110百万円あった為替差損が、今期は42百万円の為替差益に変わっています。営業利益の増分と別に、営業外だけで為替の行き来と配当でかなり積み上がっている。……この経常利益の景色は、来期も続くものではない。
在庫が増えて、現金が減っています
貸借対照表では、棚卸資産が6,487百万円から7,691百万円へ増え、現金及び預金は9,629百万円から8,372百万円へ減っています。在庫の評価方法を変えたまさにその期に、在庫そのものが積み上がった。需要回復に備えた仕込みなのか、売れ残りの始まりなのか、この短信だけでは決められません。
そして、この現金の流れを確かめようとして気づいたのですが、この短信にはキャッシュ・フロー計算書がありません。第1四半期については作成していない、と注記にあります。制度上おかしいことではないのですが、在庫が増えて現金が減った四半期にCF計算書が無いのは、読み手としては物足りない場所です。
利益の中身は、ほぼ日本です
セグメント別では、日本の利益が796百万円で全体の大半を占めます。前年同期は109百万円でした。産業機器向けの販売が増えたと会社は説明しています。全地域が増収ではあるものの、アジア・欧州・北米の利益は合わせても100百万円に届きません。
会社はどう説明しているか
会社は、在庫調整が概ね一巡し、民生・産業・車載の需要回復が見られたと書いています。一方で材料費・人件費・輸送費の上昇を挙げ、価格転嫁を進めたとも書いている。見積り変更の影響についても、隠さずに「一時的なもの」と自分から書いています。
この説明は誠実な部類だと思います。都合の良い数字の内訳を、会社が自分で割って見せている短信は、実はそれほど多くありません。ここは素直に受け取ります。
なお同日に通期予想を上方修正していますが、その理由として会社が挙げたのは、円安と、受取配当金が想定を上回る見込みであること。つまり修正の中身も営業外寄りです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 28,000 | 23.4% |
| 営業利益 | 1,500 | 59.0% |
| 経常利益 | 1,600 | 69.6% |
| 純利益 | 1,600 | 56.9% |
(単位:百万円。3ヶ月経過時点の目安は25%)
売上はほぼ目安どおり、利益は6割前後まで来ています。ただし機械の計算では、残り9ヶ月の営業利益は615百万円、前年同期比で3割以上減る置き方です。会社自身が、この四半期の勢いが続くとは織り込んでいない。見積り変更の281百万円が一時的である以上、これは慎重なのではなく、正直な予想の置き方だと思います。
私はどう読んだか
私は「本業の回復は本物、ただし利益の水準は割り引いて読む」ほうに寄せています。理由は、かさ上げの281百万円を除いても営業利益は前年同期から大きく増えていること、そして全地域が増収であることです。増収は評価方法をいじっても作れません。
一方で、経常利益と純利益の派手さは営業外と一時要因の合作なので、この水準を次の四半期の物差しにはしません。在庫の積み上がりが仕込みか売れ残りかも、次の短信で棚卸資産の行がどちらを向くかを見るまで保留です。読み違いかもしれませんが、今の材料ではここまでです。
出典:決算短信(会社発表)
棚卸資産が増え、現金及び預金が減った資金の流れの中身は、キャッシュ・フロー計算書が作成されていないため読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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