グロービング(277A)通期決算分析――来期予想の「前期比」の欄が、上から下まで空欄だった

7月15日に通期決算を発表したグロービング(277A)――来期予想の「前期比」の欄が、上から下まで空欄だった 決算を読む

はじめに

グロービングはコンサルティングの会社です。ただし、資料を納品して終わるタイプではありません。JI型と呼んでいる形で、コンサルタントが顧客企業の側に、ときには出向まで含めて事業責任者として入り込み、事業そのものを一緒に回します。助言する人ではなく、中に入って手を動かす人を送り込む商売です。

もう一つ、AI事業という柱を立てようとしています。コンサルティングで貯めたノウハウを型にして、企画支援や議事録のAIエージェントを大手顧客と共同開発する、というものです。

つまり売っているのは人の時間と頭で、それをAIという型に写し取ろうとしている途中の会社です。人を売る商売は、人を増やせた分しか伸びません。今期どれだけ人を増やし、その金がどこに流れたか。そこを見に行きます。

この決算で何が起きたか

2026年5月期の通期です。単位は百万円。

項目今回前年同期増減率
売上高11,5128,255+39.4%
営業利益4,1422,800+47.9%
経常利益4,1112,783+47.7%
純利益3,0511,768+72.6%

売上が4割増え、利益はそれ以上に増えました。営業利益率は33.9%から36.0%へ。文句のつけようがない1ページ目です。

来期予想の増減率が、一つも書かれていない

同じ1枚目の下のほうに、来期(2027年5月期)の予想が載っています。数字は入っています。

項目2027年5月期予想前期比
売上収益16,100
営業利益4,830
税引前利益4,830
当期利益3,381

増減率の欄が、上から下まで横棒です。1行だけ抜けているのではなく、全部です。会社が比較そのものを出していません。

理由は書いてあります。会計基準が日本基準からIFRSに変わるからです。

ただ、変わるのは来期からではありません。今期からです。 短信の4ページ目にこうあります。「当社グループは、財務情報の国際的な比較可能性の向上等を目的として、従来の日本基準に替えて、2026年5月期の有価証券報告書から連結財務諸表について国際財務報告基準(IFRS)を任意適用いたします。」

2026年5月期は、いま読んでいるこの決算のことです。そして1枚目に印字されている有価証券報告書の提出予定日は2026年8月26日。この決算の数字そのものが、1か月半後に別の基準で書き直されて出てきます。 短信は日本基準、有報はIFRS。同じ1年について、2通りの数字が並ぶことになります。

来期予想の増減率が空欄なのは、比べる相手がまだ世に出ていないからです。会社は日本基準の今期と、IFRSの来期を並べることを避けました。

では、勝手に並べてみるとどうなるか

会社がやらなかった引き算を、あえてやってみます。売上は11,512から16,100で約4割増。営業利益は4,142から4,830で約17%増。営業利益率にすると36.0%が30.0%へ。6ポイントほど落ちます。――ここは私が割り算した数字で、しかも物差しの違うもの同士を並べているので、そのままでは意味を持ちません。

問題は、この6ポイントのうちどこまでが物差しの違いなのか、です。短信の中で確かめられる範囲でいうと、ほとんど説明がつきません。

IFRSではのれんを償却しません。日本基準では費用として引いていた分が消えるので、利益は増える向きに動きます。ところがこの会社ののれんの償却額は年11,092千円です。営業利益4,142百万円に対して0.3%に届きません。桁が足りない。

事務所の賃料も、IFRSでは一部が営業利益より下に移ります。これも利益率を押し上げる向きです。この会社は今期オフィスを増床して敷金に240,930千円を払っているので、賃料はそれなりにあるはずですが、短信には金額が書かれていません。大きさが分からない。

つまり、この1枚では決着がつきません。物差しの違いで説明できるのか、それとも来期は採用と投資を先に出す年だと会社が置いているのか。 分かるのは8月26日です。

配当は今期16.10円に対し、来期予想35.60円。配当性向は15.0%から30.0%へ引き上げると印字されています。

最初の表では分からなかったこと

現金同等物9億円減の正体

1ページ目のキャッシュ・フローの欄に、引っかかる数字が一つあります。現金及び現金同等物の期末残高が、6,612百万円から5,693百万円へ、918,548千円減っています。純利益が7割増えた年に、手元の資金が減っている。

……いや、これは減ったうちに入りません。

13ページ目のキャッシュ・フロー計算書まで行くと、投資活動の中に定期預金の預入による支出2,000,000千円があります。普通預金から定期預金に移した金は「現金同等物」から外れます。実際、貸借対照表の「現金及び預金」は6,612,190千円から7,693,642千円へ、1,081,452千円増えています。1ページ目だけ見ると資金が細ったように見えますが、置き場所が変わっただけです。

財務活動の側では、自己株式の取得に900,548千円、子会社株式の取得に410,874千円を使っています。後者は合弁で作ったAI子会社X-AI.Laboを完全子会社化した分で、その後2025年12月1日付で本体に吸収合併しています。使い道のはっきりした支出です。

純利益だけ7割増えた理由は、税金だった

営業利益は+47.9%、経常利益は+47.7%。なのに純利益は+72.6%です。この差は1ページ目には説明がありません。

9ページ目の損益計算書で追えます。特別損益まで通した税引前の利益は、2,739,015千円から4,111,586千円へ+50.1%。経常利益の+47.7%から3ポイントしか動いていません。前期に減損損失105,477千円が乗っていたぶん前期の底が低い、というだけの差です。7割増の説明にはまるで足りない。

差がつくのはその下です。

項目前期今期
税金等調整前当期純利益2,739,0154,111,586
法人税等合計949,7781,059,904
税負担の割合34.7%25.8%

税引前が5割増えているのに、税金は1割ちょっとしか増えていません。負担の割合は9ポイント近く下がりました――この割り算は私がやったものです。

仮に前期と同じ34.7%のままだったとすると、純利益は27億円弱で止まっていた計算になります。実際は30.5億円。差はおよそ3.7億円です。純利益の増加額12.8億円のうち、3割近くが税率の低下から出ています。

なぜ下がったのかは、短信に書かれていません。 法定実効税率との差がどこから来たのかを説明する注記は、短信には載らず有価証券報告書に載ります。ここでも8月26日待ちです。

現金の側は逆に動いています。実際に払った法人税等は103,752千円から1,546,547千円へ、約15倍になりました。帳簿上の税負担は軽くなり、財布から出ていく額は重くなった。急に増えた利益に対する納税が翌期にずれ込むためで、時期のずれと読めます。

主要な顧客の欄に、トヨタ1社しかいない

注記の「主要な顧客ごとの情報」です。ここに名前が出るのは、売上の10%以上を占める顧客だけです。

前期は本田技研工業株式会社1,274,618千円と、株式会社MTG983,577千円。今期はトヨタ自動車株式会社2,313,700千円の1社だけで、コンサルティングとAIの両方にまたがっています。売上の20%ほど――私の割り算です。

前期の2社が今期いないことは、慎重に読む必要があります。売上が4割伸びたぶん、10%の線も上がりました。前期は825百万円、今期は1,151百万円です。MTGは983百万円でしたから、多少伸びていても線に届かなければ名前は出ません。消えたとは限りません。 一方、本田技研工業は1,274百万円で、線より上にいました。横ばいならまだ載っていたはずです。こちらは減っています。

深く入り込むのがJI型の商売なので、集中そのものは設計どおりです。ただ、1社で2割という形と、前年の筆頭顧客が1年で線を割る速さは、揃えて覚えておきたいところです。

AI事業は黒字化した。ただしまだ小さい

セグメント情報では、AI事業の外部売上は405,047千円。前期の42,334千円から桁が変わり、損失101,862千円から利益234,270千円に転じました。ただ全社の売上11,512百万円の中では、まだ端数です。

一方で、どのセグメントにも配分されない全社費用は△850,096千円から△1,143,542千円へ膨らんでいます。本社機能を先に太らせている段階、と読めます。

後発事象:社名が変わる

短信の最後、重要な後発事象に大きな話があります。2026年12月1日付で持株会社体制に移行し、商号を「WAOホールディングス株式会社」に変更する予定です。事業会社としてのグロービングは、この日に設立済みの子会社側へ移ります。8月27日の株主総会の承認が条件で、上場は持株会社側でそのまま維持されます。M&Aや新規事業を見据えた器の組み替えだと会社は説明しています。

決算の数字ではありませんが、この会社の名前で検索する読者は、年末から別の名前を探すことになります。

会社はどう説明しているか

会社の説明はあっさりしています。コンサルタントの中途採用を進め、新規案件の獲得と既存案件の拡大を図り、戦略アカウント中心のJI案件が伸びた。AI関連の売上も拡大した。以上です。

数字がそのとおりに動いているので、この説明はそのまま受け取ります。オフィス増床の敷金に240,930千円を払っており、人を増やす前提の支出が貸借対照表の側にも出ています。言っていることとやっていることが揃っています。

私はどう読んだか

私は良いほうに寄せて読んでいます。理由は、1ページ目で気になった現金同等物の減少が、13ページ目まで行くと定期預金への移し替えで説明がつき、貸借対照表の現金及び預金はむしろ10億円増えていたからです。悪く見える数字に、悪くない説明が短信の中に印字されていました。AI事業が黒字に転じ、増床の敷金という形で人を増やす準備が資産側に出ているのも、説明と揃っています。

そのうえで、この決算は答えの半分が来月に持ち越されています。

純利益が7割増えた理由の3割は税率の低下で、その理由はここには書かれていません。来期の利益率が6ポイント落ちて見えるのが物差しの違いなのか実態なのかも、ここでは決まりません。どちらも8月26日に出る有価証券報告書に載ります。同じ2026年5月期がIFRSで書き直され、税率の差の内訳もそこに付きます。この決算を読み終えるには、その日をもう一度開く必要があります。

留保はもう一つ、トヨタ1社への集中です。深く入り込む商売の宿命ですが、前年の筆頭顧客が1年で線を割っているのを見ると、この入れ替わりの速さは、伸びているうちは長所で、止まったときは短所になります。私の読み違いかもしれません。

出典:決算短信(会社発表)

https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260715/140120260715593954.pdf

コンサルタントの人員数が今期何人になったのかは、この短信からは読み取れませんでした。会社が伸び率の説明に使っている指標なので、そこは有価証券報告書か説明資料を待つことになります。


調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。

全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。

買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。

本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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