はじめに
第一工業製薬は化学品の会社です。ただ、自分の名前の付いた製品が店に並ぶことはほとんどありません。ほかの会社が物を作るときに混ぜる薬剤を売っている会社です。
サーバーの基板に使う樹脂の材料、電池の電極を固める接着剤、太陽電池の電気を通すペースト。こちらは電機や自動車のメーカーが買います。反対に、食品に混ぜる乳化剤、石鹸や洗剤の原料、化粧品の材料もあって、こちらは日用品のメーカーが買います。住宅の建材を燃えにくくする薬剤も作っています。
つまり、電子機器から食べ物まで、出来上がった物の中に少しだけ入っている会社です。売り先が広いぶん、どの部門が伸びたかで顔が変わります。今回の決算は、その顔がはっきり片方を向いていました。
この決算で何が起きたか
7月29日に出た第1四半期決算です。売上が4割増えて、利益は3倍になりました。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 275億100万円 | 190億4,600万円 | +44.4% |
| 営業利益 | 51億1,700万円 | 17億2,300万円 | +196.9% |
| 経常利益 | 52億2,800万円 | 16億8,900万円 | +209.5% |
| 純利益 | 31億1,600万円 | 9億8,400万円 | +216.5% |
営業利益率は18.6%で、前年同期の9.0%の倍です。これは私の割り算です。同じ日に、中間と通期の予想を上げる発表も出ています。
増えた利益の中身は、粗利です
損益計算書を上から順に見ます。粗利と販管費を並べます。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上総利益 | 89億9,700万円 | 50億8,500万円 | +39億1,200万円 |
| 販売費及び一般管理費 | 38億8,000万円 | 33億6,200万円 | +5億1,800万円 |
出どころは短信の損益計算書です。
売上総利益は39億1,200万円増えたのに、販売費及び一般管理費は5億1,800万円しか増えていません。39億1,200万円から5億1,800万円を引きます。答えは33億9,400万円で、これが営業利益の増えた分とぴたり合います。売上が4割増えたのに、売るための費用はほとんど増えていない。ここまでは損益計算書の数字です。高く売れる物の割合が増えた、と私は読みました。
部門ごとに並べると、偏りがはっきりします。
| 部門 | 売上高 今回 | 前年同期比 | 営業利益 今回 | 営業利益 前年同期 |
|---|---|---|---|---|
| 電子・情報 | 108億4,000万円 | +56.3% | 26億6,800万円 | 14億4,700万円 |
| 環境・エネルギー | 84億1,600万円 | +81.9% | 17億3,400万円 | △7,300万円 |
| ライフ・ウェルネス | 38億900万円 | +8.5% | 4億4,100万円 | 2億2,600万円 |
| コア・マテリアル | 44億3,500万円 | +11.7% | 2億7,200万円 | 1億2,200万円 |
出どころは短信9ページ目のセグメント情報です。
伸びたのは電子・情報と環境・エネルギーの2つです。とくに環境・エネルギーは前年同期に7,300万円の赤字だった部門で、それが17億3,400万円の黒字に変わりました。赤字の部門が黒字になると、営業利益は足し算以上に膨らみます。4ページ目には、サーバー向けの低誘電樹脂材料と、リチウムイオン電池の負極に使う水系の接着剤が名指しで挙がっています。
一時的、と会社が自分で書いている
引っかかったのは、4ページ目の文章です。売上が伸びた理由として、会社は4つ並べています。2つの部門の販売拡大、価格改定の浸透、そして「中東情勢を背景とした一部製品における一時的な需要増」です。一時的、と自分で書いています。
どの製品が、いくら一時的なのかは、決算短信には書かれていません。表紙に「決算補足説明資料作成の有無:有」とあるので、そちらに内訳があるのかもしれませんが、私はまだ読んでいません。
ただ、会社側がどう見込んでいるかは、同じ日に上げた予想から逆算できます。中間累計の営業利益予想は75億円です。そこから第1四半期の51億1,700万円を引くと、7月から9月の3か月は23億8,300万円になります。4月から6月の半分以下です。売上も同じです。中間累計の520億円から275億100万円を引きます。次の3か月は244億9,900万円です。第1四半期より1割ほど減る置き方になります。
……いや、これは会社の側がはっきり言っている。第1四半期の利益は続かない、と。予想を上げた数字そのものが、一時的の大きさを教えてくれています。
営業外にも似たものがあります。為替差益が1億9,800万円で、前年同期は300万円でした。経常利益の伸びのうち、この分は本業ではありません。あわせて棚卸資産処分損が3,500万円、今年から出ています。金額は小さいですが、前年には無かった科目です。
現金が減っていますが、第1四半期らしい減り方です
貸借対照表で、現金及び預金が29億7,000万円減っています。利益が51億円出た四半期に現金が減るのは、一見おかしく見えます。理由は短信の5ページ目にあります。受取手形及び売掛金が29億1,300万円増えました。売った分がまだ現金になっていないだけで、売上が4割増えれば売掛金も増えます。
それだけではありません。賞与引当金が9億7,900万円、未払法人税等が12億3,500万円減っています。前の期のボーナスと税金を、この3か月で払ったということです。毎年第1四半期に起きることで、うちの会社の資金繰り表も4月から6月はいつも同じ形をしています。
確かめたいのは営業キャッシュ・フローですが、第1四半期のキャッシュ・フロー計算書は作成していない、と8ページ目に明記があります。分かるのは減価償却費が7億8,700万円だったことだけです。売掛金がきちんと現金に変わったかは、中間決算まで待つことになります。
1株利益の伸びが、純利益の伸びに追いついていない
2ページ目に、細かい数字があります。期中平均株式数が、前年同期の9,575,826株から10,610,872株へ増えています。100万株あまりの増加です。純利益は前年同期の3倍あまりに増えました。それなのに1株利益は102.81円から293.70円への伸びです。3倍に届いていません。増えた株式数で割られているからです。
前の期のどこかで株式が増えたことになりますが、その理由は今回の短信には書かれていません。前の期の決算を開けば分かることで、私はまだ開いていません。
会社はどう説明しているか
説明は素直です。高い値段で売れる製品の販売が広がり、価格改定も浸透した、と4ページ目にあります。そこに一時的な需要増を、自分から付け加えています。良い数字だけを並べることもできたはずで、そうしなかった点は誠実だと受け取りました。
そのうえで、留保を1つ付けます。太陽電池向けの導電性ペーストは、国内は大幅に伸びて海外は大きく落ちた、と書かれています。同じ製品で国内と海外がここまで逆に動く理由は、短信からは分かりません。伸びている部門の中にも、片方が落ちている製品があるということです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 第1四半期 | 通期予想 | 残り9か月に必要な額 | 残り9か月の前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 275億100万円 | 970億円 | 約694億9,900万円 | 約+8.8% |
| 営業利益 | 51億1,700万円 | 125億円 | 約73億8,300万円 | 約△11.9% |
| 純利益 | 31億1,600万円 | 77億円 | 約45億8,400万円 | 約△11.6% |
約の付いた数字は、表紙の通期予想から第1四半期を引いて、前年の同じ9か月と比べた私の計算です。
営業利益は3か月で4割まで来ています。通常なら4分の1のところです。それでも通期予想は125億円です。残りの9か月に必要な73億8,300万円は、前年の同じ9か月より1割あまり少ない額です。第1四半期で4割稼いだあとを、減益と置いたわけです。売上のほうは残りも1割弱の増収を見込んでいるので、減ると見込んでいるのは量ではなく、利益率のほうです。
私はどう読んだか
受け取り方は2つあると考えています。一つは、会社が慎重に置きすぎているだけで、サーバー向けと電池向けの伸びは続く、というもの。もう一つは、第1四半期に需要が前倒しで来ていて、予想のとおりに落ち着く、というものです。
私は後者の見方をしています。理由は、会社が自分で一時的と書き、その言葉どおりに次の3か月を半分以下と置いているからです。中東情勢が理由の需要増は、この会社が自分の商売で作った需要ではありません。
ただ、粗利が39億円増えた中身のうち、価格改定と高付加価値品の分は、3か月で消える種類のものではないはずです。一時的な分がいくらで、残る分がいくらか。それが分かるまで、心配性の私はこの決算をあと1回は待ちます。上がるかは知りません。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260729/140120260728501228.pdf
「一時的な需要増」がどの製品で、売上のいくらにあたるのかは、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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