はじめに
内海造船は、瀬戸内の因島に本社を置く造船会社です。カナデビア(旧日立造船)の系列で、中型のばら積み船、フェリー、RORO船といった船を造っています。ばら積み船は穀物や石炭を運ぶ船、RORO船はトラックごと貨物を載せて走る船で、買うのは海運会社や船主です。
造船という商売の面白いところは、時間の流れが普通の会社と違うことです。船は注文から引き渡しまで年単位かかるので、今日の売上は何年も前に取った注文の消化であり、今日取った注文は何年も先の売上になります。つまり四半期決算の数字は「今どれだけ忙しいか」を映していて、「この先どれだけ忙しいか」は別の場所――受注残という欄――に書いてあります。
2026年8月6日に出た第1四半期の短信は、この2つの時間がはっきり別の方向を向いていました。
この決算で何が起きたか
数字だけ見れば、文句のつけようがない四半期です。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 12,586 | 10,192 | +23.5% |
| 営業利益 | 1,295 | 426 | +203.6% |
| 経常利益 | 1,311 | 410 | +219.8% |
| 純利益 | 886 | 395 | +124.0% |
(単位:百万円)
売上が2割強伸びて、営業利益は3倍。営業利益率は前年同期の4.2%から10.3%まで上がっています。造船で2桁の利益率は、なかなか見ない数字です。
売った船の数は、増えていない
ここで引っかかったのが、短信4ページ目の会社自身の説明です。売上の対象になった船は10隻。前年同期も10隻。同数です。
では何が3倍の利益を作ったのか。会社は3つ挙げています。船種の違い、決算日時点の工事進捗度の差、そして円安で外貨建て工事の売上が増えたこと。要するに、造る船の中身と進み方とレートの話であって、仕事の量が増えた話ではありません。
そして同じ4ページ目に、もう1つの時間の話が書いてあります。当第1四半期の新造船の新規受注はゼロ。修繕船などで1,643百万円を受注したものの、受注残高は1,235億34百万円で、前年同期から1割強減りました。
いま忙しい理由と、この先の仕事の量は、別の話だ。……この短信は、それを1枚の紙の中で同時に言っている。
前受けで回る、造船の台所
貸借対照表も見ておきます。現金及び預金が10,783百万円から19,591百万円へ、3ヶ月で大きく増えました。一方で受取手形・売掛金及び契約資産は18,417百万円から12,919百万円へ減りました。契約負債は18,982百万円から21,416百万円へ増えています。
契約負債というのは、船主から先にもらったお金のうち、まだ工事が済んでいない分です。売掛金が減って前受金が増えて現金が積み上がる。お客の金で船を造る、造船らしい健全な回り方です。自己資本比率も28.7%から29.2%へ上がりました。
なお、この短信にキャッシュ・フロー計算書は付いていません。第1四半期については作成していない、と12ページ目の注記にあります。ルール上それで構わないのですが、私はいつも10ページ目あたりでこの表を探す人間なので、上の貸借対照表の動きから読むしかありませんでした。
同じ注記のページには、借入金に財務制限条項が付いていることも書かれています。単体の貸借対照表で債務超過にならないこと、という条件です。純資産が14,267百万円まで積み上がっている今は遠い話に見えますが、造船は一度崩れると大きく崩れる商売なので、こういう条項があること自体は覚えておきます。
会社はどう説明しているか
通期予想は据え置きです。売上高46,000百万円、営業利益1,600百万円。前期比で営業利益はほぼ半減の置き方のままです。
会社は5ページ目で、利益がすべて計画比70%超まで進んでいることを自分で認めたうえで、為替と、中東情勢による塗料やシンナーの入手状況をはじめとする資機材価格の見通しが不透明だから変えない、と書いています。造船所で塗料が手に入らないと工程が止まりますから、理屈としては分かります。
もう1つ。配当です。今期の予想は期末40円。前期の実績は100円でした。印字の上では大幅な減少ですが、なぜ40円なのかの理由は、決算短信には書かれていません。5月に公表済みの予想からの修正は無い、とあるだけです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 46,000 | 27.4% |
| 営業利益 | 1,600 | 80.9% |
| 経常利益 | 1,500 | 87.4% |
| 純利益 | 1,000 | 88.6% |
(単位:百万円。この時期の目安は25%)
売上はちょうど4分の1強で予定どおり。利益だけが年の8割を3ヶ月で終えています。
予想から今回の実績を引くと――これは私が引き算した数字です――残り9ヶ月に割り当てられた営業利益は305百万円しかありません。この第1四半期の4分の1以下を、9ヶ月かけて稼ぐ置き方です。工事進捗度の差で利益が前倒しになったという会社の説明と、この置き方は、一応つじつまが合います。前倒しした分、後ろが薄くなるからです。
私はどう読んだか
読み方は2つあります。予想が保守的すぎて、このあと修正が出るという読み方。もう1つは、利益は本当に前倒しで出てしまっただけで、残り9ヶ月は会社の言うとおり薄い、という読み方です。
私は後者に寄せて読んでいます。理由は、会社自身が増益の理由を隻数ではなく進捗度と為替だと明言していることと、新造船の新規受注ゼロ・受注残1割強減という、この先の仕事量の数字です。今の利益率の高さは、いま手掛けている船の顔ぶれが良いという話であって、それは受注残が細れば続きません。読み違えかもしれません。据え置きがただの用心深さで、上方修正が出る可能性は普通にあります。ただ、修正が出るかどうかより、受注残がいつ増え始めるかのほうを、私は見ます。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260806/140120260805509373.pdf
配当予想が前期の100円から40円になった理由は、決算短信からは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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