はじめに
CKサンエツは、黄銅(真鍮)の棒や線を作っている会社です。中核のサンエツ金属はこの分野で首位で、2015年には日本伸銅を子会社にしています。黄銅の棒や線と言われてもぴんと来ないかもしれませんが、水道の蛇口やガスの栓、電気部品の端子など、削って部品にする金属の「素材」を供給する側の会社です。ほかにカメラ用の精密部品、配管や鍍金の事業も持っています。
素材の会社なので、主原料である銅の値段の影響を強く受けます。今回の短信は、その影響がとても分かりやすい形で出ていました。
8月7日に発表された、2027年3月期の第1四半期決算です。1ページ目の業績表を見た瞬間に、引っかかりました。営業利益がほぼ3倍。なのに、経常利益がほとんど動いていません。
この決算で何が起きたか
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 48,939 | 35,427 | +38.1% |
| 営業利益 | 5,606 | 1,990 | +181.6% |
| 経常利益 | 2,628 | 2,625 | +0.1% |
| 純利益 | 1,551 | 1,850 | -16.2% |
(単位:百万円)
売上は4割近く増え、営業利益はほぼ3倍。ここまでは文句のない数字です。ところが経常利益は前年同期とほぼ同額で、純利益に至っては減っています。営業と経常の間で、何かが起きています。
増えた営業利益は、営業外のデリバティブで消えていた
損益計算書の営業外費用の欄に、答えが印字されていました。デリバティブ損失が11億13百万円、デリバティブ評価損が20億51百万円。営業外費用の合計は32億16百万円です。前年同期の営業外費用は4億68百万円でしたから、ここが一気に膨らんでいます。
しかも前年同期は逆でした。営業外収益の側にデリバティブ利益5億86百万円、デリバティブ評価益1億97百万円が入っています。つまり、去年はデリバティブが利益を押し上げ、今年はデリバティブが利益を削った。その結果、経常利益だけを見ると2,625百万円と2,628百万円で、まるで何も起きなかったかのように並んでいます。
……いや、これは偶然が過ぎる並びだ。営業段階では36億円も利益が増えているのに、経常では3百万円しか動いていない。
このデリバティブが何を対象にした取引なのかは、決算短信には書かれていません。素材の会社なので原材料に絡むものかと想像はしますが、これは私の想像であって、短信に印字されていることではありません。
売上4割増の中身は、量ではなく値段だった
セグメントの数字を見ると、もう一つの構図が見えます。伸銅事業の売上は440億58百万円で4割以上増えましたが、販売量は2万7,108トンで、前年同期比2.4%の増加です。量はほとんど増えていません。増えたのは値段です。
会社自身が4ページ目でこう書いています。主要原材料である銅の建値が、2026年6月3日に1トン233万円という、これまでで最も高い水準を付けたと。素材の商売では、原料の値段が売値に乗ります。売上4割増の大部分は、この建値の上昇によるものだと、会社の説明文から読めます。
一方で、営業利益率は前年同期の5.6%から11.5%へ上がりました。伸銅のセグメント利益は48億98百万円で、前年同期の3.7倍になりました。精密部品も2倍です。値段が乗っただけなら利益率までは上がりにくいので、ここには子会社化した三谷伸銅との相乗効果なり、採算の改善なりが効いている可能性があります。ただ、その内訳は短信には書かれていません。
貸借対照表は膨らみ、現金の流れは確かめられない
もう一つ、1ページ目には出てこない話です。
| 項目 | 前期末 | 今回 |
|---|---|---|
| 電子記録債権 | 9,761 | 17,985 |
| 受取手形・売掛金等 | 21,767 | 23,993 |
| 短期借入金 | 11,970 | 23,100 |
(単位:百万円)
電子記録債権が3ヶ月で8割ほど増え、棚卸資産も35億57百万円増えました。銅の建値が上がれば、同じ量の在庫も売掛も金額としては膨らむので、これ自体は素材業の宿命ではあります。ただ、その運転資金を賄うために短期借入金がほぼ倍になり、自己資本比率は56.3%から49.9%へ、5割を切りました。
では利益は現金になっているのか。それを確かめようとしてページをめくると、9ページ目に「当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成しておりません」とあります。四半期の短信では珍しいことではありませんが、今回のように債権と在庫と借入が同時に膨らんでいる決算では、いちばん見たい書類が無い、ということになります。
会社はどう説明しているか
会社の説明は簡潔です。銅の建値が上がったことで売上と営業利益が増え、営業外のデリバティブ損失と評価損で経常は横ばい、純利益は減った。数字の並びとしてはその通りで、私もこの説明自体には留保をつけません。
ただ、説明されていないことが一つあります。次の節がそれです。
営業利益の進捗56%で、予想は3割減のまま動かない
通期予想は5月13日公表から変更なしです。
| 項目 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 180,000 | 27.2% |
| 営業利益 | 10,000 | 56.1% |
| 経常利益 | 10,000 | 26.3% |
| 純利益 | 6,500 | 23.9% |
(単位:百万円。3ヶ月経過時点の目安は25%)
営業利益は、通期予想100億円に対して3ヶ月で56億円。半分を超えました。それでも会社は、営業利益が前期比3割減という予想を据え置いています。据え置いた理由は、決算短信には書かれていません。なお、この会社は年次で業務管理をしているとの理由で、第2四半期累計の予想もそもそも出していません。
もう一つ目を引くのは、予想では営業利益と経常利益が同じ100億円だということです。第1四半期の実績では、経常は営業を大きく下回っています。残りの9ヶ月でこの差がどう埋まる想定なのかも、短信からは読み取れませんでした。
私はどう読んだか
読み方は2つあると思います。営業利益率の改善を本物の実力と見る読み方と、建値の上昇とデリバティブの振れに挟まれた、相場商品らしい振れ幅の大きい四半期と見る読み方です。
私は後者に寄せて読んでいます。理由は、販売量が2.4%しか増えていないこと、そして経常利益が前年同期とほぼ同額に落ち着いてしまったことです。営業で稼いだ分が営業外で消える構図は、去年は逆向きに働いていました。銅の建値次第で、来期はまた逆に振れるかもしれない。そういう体質の決算だと受け取りました。営業利益率の改善は事実なので、そこを軽く見過ぎている読み違いかもしれませんが、確かめる材料が今回の短信の中にはありませんでした。
出典:決算短信(会社発表)
https://tdnet-pdf.kabutan.jp/20260807/140120260806512894.pdf
デリバティブ損失と評価損が何を対象にした取引から生じたのかは、読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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