はじめに
日本郵船は、日本でいちばん大きい海運会社です。海運と言われてもぴんと来ないかもしれませんが、私たちが着ている服も、乗っている車も、家で使う電気のもとになる燃料も、その大半は船で日本に来ています。この会社は、コンテナ船で日用品や部品を運び、専用船で自動車を運び、大きなばら積み船で鉄鉱石や穀物を運び、タンカーで原油やガスを運んでいます。倉庫や航空貨物の取り扱いまで含めた物流の会社でもあり、最近は欧州で医薬品を運ぶ物流事業も買収して育てています。
つまり、世界でモノが動いているかどうかが、そのままこの会社の数字になります。逆に言えば、この会社の決算は、世界で何が起きているかの記録でもあります。今回の短信には、それがかなり生々しい形で出ていました。
2026年8月5日に出た、2027年3月期の第1四半期決算です。
この決算で何が起きたか
数字だけ見れば、文句のつけようがない四半期です。
| 項目 | 今回 | 前年同期 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 727,656百万円 | 600,926百万円 | +21.1% |
| 営業利益 | 57,708百万円 | 33,976百万円 | +69.8% |
| 経常利益 | 71,222百万円 | 55,943百万円 | +27.3% |
| 純利益 | 67,109百万円 | 50,287百万円 | +33.5% |
売上が2割増え、営業利益は7割増えました。営業利益率は5.7%から7.9%へ上がっています。さらに会社は通期予想を引き上げ、配当も期初予想から中間・期末それぞれ20円ずつ増やして年間240円にすると発表しました。上方修正と増配の同時発表です。
ただ、この短信は1ページ目より、7ページ目のほうがずっと大事でした。
最初の表では分からなかったこと
上方修正の土台は、海峡の封鎖です
短信の7ページ、業績予想の説明の冒頭に、会社はこう書いています。
以下のセグメント別業績予想は、ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続することを前提として策定しています。
引っかかったのはここです。今回の好調の説明文を読んでいくと、コンテナ船の燃料価格上昇も、タンカー市況の上昇も、自動車船のルート変更も、燃料油販売の好調も、繰り返し「ホルムズ海峡封鎖」という言葉が出てきます。運賃やタンカー市況が上がったのは、船が長い距離を走らされ、船の取り合いになっているからです。つまり増益の相当部分が、会社の努力ではなく、海峡が封鎖されているという外部の出来事から来ています。
会社はそれを隠していません。前提として印字しています。だからこの上方修正は「9月末まで封鎖が続いたら」という条件付きの数字として読むべきものです。封鎖が早く解ければ、同じ理屈が逆向きに働きます。
営業は7割増なのに、経常は3割増にとどまる理由
営業利益の伸びに比べて、経常利益の伸びが小さい。損益計算書の営業外の欄を見ると、理由が2つ書いてあります。
| 項目 | 前年同期 | 今回 |
|---|---|---|
| 持分法による投資利益 | 23,785百万円 | 16,562百万円 |
| 支払利息 | 4,916百万円 | 8,586百万円 |
持分法の利益が減り、支払利息はほぼ倍になっています。そして4ページ目に、持分法利益165億円のうち、コンテナ船の共同運航会社ONE社からの分は13億円だ、と書いてあります。かつて利益の柱だったコンテナ船の持分が、いまは全体の1割にも満たない。……本体が稼ぐ形に変わった、とも読めるし、コンテナの稼ぐ力が細った、とも読める。会社の説明では、ONE社は増収だったものの燃料費等の増加で利益水準は前年同期を下回った、とあります。
純利益には、船や設備を売った利益が乗っています
損益計算書の特別利益に、固定資産売却益17,394百万円があります。前年同期は7,826百万円でした。純利益671億円のうち173億円がこれです。毎期ある程度は出る項目ですが、前年の倍以上あることは、純利益の3割増を読むときに差し引いておきたい点です。
キャッシュ・フロー計算書が、ありません
私はいつも添付資料のキャッシュ・フロー計算書まで読みに行くのですが、この短信にはありません。13ページに「当第1四半期連結累計期間に係る四半期連結キャッシュ・フロー計算書は作成していません」と書いてあります。第1四半期では作らない会社は珍しくなく、ルール上も問題ありません。ただ、現金が本業から入ってきているかは、この短信からは確かめられないということです。
代わりに貸借対照表を見ると、棚卸資産が72,572百万円から94,054百万円へ増え、有利子負債は1,601億円増えて1兆3,616億円になっています。長期貸付金も44,751百万円から79,481百万円へ増えました。利益が7割増えた四半期に借入も大きく増えている。投資を積んでいる(建設仮勘定も276,625百万円から325,823百万円へ増えています)と読むのが素直ですが、現金の出入りそのものは見えません。
全部門が良かったわけではありません
セグメント別の経常利益を見ると、物流事業は前年同期の32億円の黒字から24億円の赤字に転落しています。海上貨物の仕入価格が先行して上昇したこと、欧州で買収したヘルスケア物流ののれん償却費等の計上が理由として書かれています。買収した事業の重さが数字に出始めた形です。なお今期からセグメント区分と費用の配り方が変わっており、前年の数字は組み替え後のものです。区分をまたいだ比較は、例年より慎重に読む必要があります。
会社はどう説明しているか
会社の説明は一貫しています。ホルムズ海峡封鎖で燃料は高くなったが、それ以上に運賃・市況が上がった。ドライバルクとエネルギーが市況上昇で大きく伸び、特にVLCCの市況は「歴史的な高水準」だった、と。そして予想の前提に封鎖の継続期限まで明記している。外部要因で儲かっていることを、会社自身がかなり率直に書いた短信だと思います。ここは素直に受け取ります。留保をつけるのは説明ではなく、その前提の続きやすさのほうです。
通期予想に対して、どこまで来ているか
会社が今回引き上げた通期予想はこうです。
| 項目 | 期初予想 | 今回予想 |
|---|---|---|
| 売上高 | 26,050億円 | 28,810億円 |
| 営業利益 | 1,450億円 | 1,850億円 |
| 経常利益 | 1,850億円 | 2,500億円 |
| 純利益 | 1,950億円 | 2,400億円 |
これは私が割り算した数字ですが、第1四半期の営業利益577億円は、引き上げ後の通期1,850億円に対しておよそ3割です。3ヶ月で4分の1が目安の時期としては先行しています。ただし前提が前提です。封鎖は9月末まで、つまり第2四半期の終わりまでしか織り込まれておらず、下期の営業利益は上期ほどの勢いを見込んでいない置き方に読めます。前提どおりに世界が動くかどうかは、会社にも私にも分かりません。
私はどう読んだか
強い決算です。それは認めたうえで、私は慎重なほうに寄せて読んでいます。理由は、営業利益7割増の源泉が海峡封鎖という一つの外部要因に集中していて、会社自身がそれを前提として明記しているからです。前提が外れる方向は、たぶん片側しかない。封鎖が長引けば上振れ、解ければ剥落。この非対称を自分で織り込める人の決算だと思います。私の読み違いかもしれません。封鎖が解けても市況が高い水準に残る、という筋もあり得ます。
出典:決算短信(会社発表)
キャッシュ・フロー計算書が作成されておらず、この四半期に本業から現金がいくら入ったのかは読み取れませんでした。
調べてほしい会社があれば、証券コードと社名を書いて、下のコメント欄に残していってください。
全部は書けません。短信を開いてみて、書くことが見つからない会社もあります。それでも、次にどこを開くかを決めるのに使わせてもらいます。
買っていいかどうかの相談には答えられません。ここで書けるのは、短信に何が書いてあったか、それだけです。
本コンテンツはAIによる情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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